2006年03月22日

【医療エッセイ】石との闘いR(第4話/全4話) 成果篇

この記事はシリーズ連載です。できれば最初の記事からどうぞ。

前回シリーズ『石との闘い


■『石との闘いR』目次
 石との闘いR 第1話 発症篇
 石との闘いR 第2話 衝撃篇(前)
 石との闘いR 第3話 衝撃篇(後)
 石との闘いR 第4話 成果篇 当記事


破砕室から戻った私は、もう一度抗生物質の点滴を受けた。
この点滴が終われば、とりあえず今回の破砕手術は終了である。
だが、その前に看護婦さんから言われていたことがあった。
「必ずお小水を取ってくださいね。検査しますから。」

衝撃波によるダメージはどれくらいか。
どの程度石を砕くことが出来たか。
炎症を起こしてはいないか。
それが一番分かるのが、「手術後のお小水」なわけだ。
点滴が終わった私は紙コップを片手にトイレへ行った。

うわっ! 赤っ!

さすがに衝撃波を食らって、ダメージがないわけがなく、白いコップに満たされていく液体は、深みのあるワインレッド。
うーむ。赤い。つくづく赤い。

点滴によって水分をかなり取っているので、尿の量は充分だ。
……ていうか、多すぎる。
まずいまずいまずい。
もうすぐ紙コップいっぱいだ。
大きめアメリカンサイズの紙コップだというのに。
入れるのやめようか。
でも量も検査の対象かもしれないし。
コップをもう一個持ってくるんだった。
危機管理がなっていなかった。
うかつだった。
もうすぐレッドゾーンだ。

そんな葛藤の中、なんとか赤ワインはコップぎりぎりにおさまった。
お母さんのお手伝いをする子供のような慎重さで、そのコップを診察室まで運ぶと、看護婦さんが言った。

「あらあら、まあまあ、こんなにたくさん!」

土産をもらった親戚のおばさんか、あんたは。
でかい声でそんなこと言わんでくれ。

思ったより出血が少ないようだ、なかなかきれいな尿だ、などという看護婦さんの私の尿に対する論評を赤面して聞きながら、破砕手術初体験は終了した。

    ◇

手術してから1週間後。
成果を確かめるために、また私は病院に来ていた。
はっきりいって、成果はあまり感じられなかった。

まだ相変わらず腰に鈍い痛みがある。
そして砕けた石は出てきていなかった。
なぜそんなことが断言できるのかというと、確かめていたからだ。

尿を。

家でトイレに行く度に、古い茶漉しで尿をこしとってみていた。
しかし、ない。
網の上には石どころか砂すら残らない。
ない。ない。ない。
あるはずなのに。どうしてだ。
もはや気分は砂金探しである。

砂金はほとんど見つからず、故に今回の結果も期待していなかった。

レントゲンを見た医者は言った。
「すこし砕けたみたいですね。」
前回と今回のレントゲンを見比べてみると、石は確かにその一部が欠けていた。
おお。少しは効果があったのか。
じゃあ、その一部は気づかないうちに外に出たのか?

「……たぶんこの欠けた部分は……腎臓に戻ってますね。」
は?

「ここんとこが欠けて、で、ほらこの腎臓のところに、
 小さな石が写ってますよね。」
あ。ほんとだ。

「欠けた部分が腎臓に逆流しちゃったようですね。ははっ。」
ははは……ってオイ。ダメじゃん。

「こりゃ、もう一回ですね。いつがいいですか?」
……やっぱり?


結局、私の石が砕けたのは2回目のトライ後だった。
2回目は1回目より痛くなかった。慣れたのかもしれない。
そのうち気持ちよくなるのかもしれない。

そして砂状になったシュウ酸カルシウムは、茶漉しの上をしばらくにぎわし、私の砂金採り魂を満足させてくれたのであった。

    ◇

ゴンザは『超絶!結石破砕衝撃波』を会得した。
ゴンザはレベルが上がった。
ゴンザの闘いの旅は、これからも続いていく。

<第2部・完>

■『石との闘いR』目次
 石との闘いR 第1話 発症篇
 石との闘いR 第2話 衝撃篇(前)
 石との闘いR 第3話 衝撃篇(後)
 石との闘いR 第4話 成果篇 当記事
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2006年03月19日

【医療エッセイ】石との闘いR(第3話/全4話) 衝撃篇(後)

この記事はシリーズ連載です。できれば最初の記事からどうぞ。

前回シリーズ『石との闘い

■『石との闘いR』目次
 石との闘いR 第1話 発症篇
 石との闘いR 第2話 衝撃篇(前)
 石との闘いR 第3話 衝撃篇(後)当記事
 石との闘いR 第4話 成果篇


点滴スタンドをお供に「破砕室」につくと、奥から医者がひょいと顔をのぞかせて会釈した。

しれっとした顔のしれっとした医者はしれっとした口調で言った。

「立派な石をお持ちで。」

テンションの高いときの私なら、この小粋な泌尿器科ジョークに、
「ほほほほほ。大したことござあませんのよほんの1.5カラット。」
と応じることが出来たかもしれない。
だが今はそんな余裕はない。

「はあ、どうも。」
もそもそ答えると、しれっとした医者は、ジョークがスベったことを気にした風もなく、こくんと頷いた。
このジョークでは、スベり慣れているのかもしれない。

さっそく手術台の上に乗せられる。
真中片側がぽっかり欠けた高いベッドという感じの手術台だ。

衝撃波結石破砕装置

仰向けに寝ると、その欠けた部分に腰が来る。
おしりと背中で身体を支えて、腰は宙に浮いている形になる。
そして、横から衝撃波を発する機械が入り込む。
腰の下からぐにゃりとした透明の半球が押し付けられ、上からはなにやら円筒状のものが見下ろす。

こんなもので、体内のミリ単位の石に焦点をあわせて、
それを砕くほどの衝撃波を当てることができるのかー。
すごいなー。
…………。

……本当にできんのか?

にわかに科学技術に対して懐疑的になった私に、医者が言った。
「はい、行きますよー。ちょっとバチッと来ますよー。」

バチッ!

たしかに。

衝撃波を浴びたことのない人のために、レポートしよう。
痛さは「重い電気ショック」といったところだ。
静電気でバチッとくる感覚に、少し深みを加えてビターな味わい。

痛いか痛くないか聞かれたら、私は答える。
痛い、と。
痛いに決まってんだろ、と。

だいたい1秒に2回くらいのペースで、バンッ!バンッ!
という音とともに衝撃波が当てられる。
一撃ごとの痛さは、それほどでもない。
ただ、連打なので、痛みが徐々にたまっていく気がする。

5分ほどボディブローをくらい続けると、急に痛みが軽くなってきた。

なんにでも慣れというのはあるものだ。
そのうちコレも気持ちよくなってくるのかもしれない。
それはとてもイヤなことだけれど。

などと一息ついていると、医者が急に装置を止めた。
「急に軽くなりませんでした?」
……慣れではなかったらしい。

医者は私を一旦ベッドからどかせて、装置をいじり始めた。
どうやら、装置の中の消耗部品が磨耗していたようだ。
医者は得意げに言った。
「機械が正月ボケしてたみたいでね。いま新品のに交換しましたから。」
 
……えーと。ここ喜ばなきゃいけないとこ?

目の前で数撃の試運転をしてくれた。
腰に当てるバレーボール大の透明な半球の中に、バチッと派手な電撃が走った。
まさしく稲妻。

こんなもん当てられとったんか俺は。

バチッ!バチッ!

リフレッシュした稲妻製造機は、とてもイキが良くなっていた。
さっきより、痛い。新品おそるべし。
衝撃波を当てながら、当てる方向や位置が微妙にずらされるのだが、この角度によってずんと痛くなる。
腰骨に響くような角度に来たりすると、かなり痛い。

気を紛らわせないと、やっていられない。
他のことを考えよう。そうだ。こういう時は九九だ。

(いんいちがいち。いんにがに。いんさんがさん。いんしが……)

基本に立ち返り、一の段から。

(さぶろくじゅうはち、さんしちにじゅういち、さんぱにじゅう……はち?)

小学校2年生2学期レベルの間違いをしつつ、九九を何度も繰り返した。
延々30分くらいの間、九九をループ。なにがなんだかわからなくなってくる。
ようやく「はい、お疲れ様でしたー。」機械が止まった。

「痛かったですか?」と聞いてもしょうがないことを聞く医者に、へへっと半笑いで答えながら、私は手術台を降りた。

ありがとう。先生のおかげで苦手な七の段もバッチリさ。

<つづく>

■『石との闘いR』目次
 石との闘いR 第1話 発症篇
 石との闘いR 第2話 衝撃篇(前)
 石との闘いR 第3話 衝撃篇(後) 当記事
 石との闘いR 第4話 成果篇
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2006年03月16日

【医療エッセイ】石との闘いR(第2話/全4話) 衝撃篇(前)

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■『石との闘いR』目次
 石との闘いR 第1話 発症篇
 石との闘いR 第2話 衝撃篇(前) 当記事
 石との闘いR 第3話 衝撃篇(後)
 石との闘いR 第4話 成果篇

年明けすぐ、私は衝撃波による結石破砕術を受けることになった。
かなりご機嫌な新年の幕開けである。

衝撃波破砕は手術の一種だが、切らないで済むので身体へのダメージが少なく、日帰り入院のケースが多い。
私も日帰りでの手術となった。

午後1時に衝撃のスタートだが、11時に受付に行く。
手術前の下準備があるのだ。
診察室奥の部屋に通されると、そこには無理やりな感じで、3床のベッドが並べられていた。
それぞれがカーテンで仕切られていて、学校の保健室のようだ。

隣にはすでに誰かが入っているらしく、カーテンが引かれている。
看護婦さんと患者らしきおじさんの声が聞こえてきた。
「○○さーん、12時半から衝撃波だよねー。」
「おー。もうすぐ点滴1本目終わるよー。」
「はーい。さすがベテランさんだねえ。」
「いやいやー。あははー。」

どうやら、隣にいるのは結石の玄人らしい。
私もいずれはあんな風になれるのだろうか。

なりたかない。

私も点滴を受けることとなり、まずは手術着に着替える。
基本的にはパジャマのようなものだが、点滴の管をさばきやすいよう、上着はハッピのようになっている。
「ピンクのしかないんだけど、いい?」
看護婦さんが申し訳なさそうに言う。

……そこは大した問題じゃないです。

気弱に笑った私は、さっさとピンクに着替えて点滴を受けた。
点滴の中身は生理食塩水、ブドウ糖、抗生物質といったところだ。

ところで、手術といえば麻酔がつきものだが、衝撃波破砕術には麻酔は用いない。
麻酔なし。麻酔なしで衝撃波。衝撃波でどーん。

ただし「痛み止めはします」と聞かされていた。
痛み止めの注射は大抵、普通の静脈注射より痛い筋肉注射だ。
痛み止めの注射が痛いというのは、ガラの悪い警察官みたいに不条理だ、などと考えていると、看護婦さんが近づいてきた。
「そろそろ痛み止めして、破砕室に行きましょうね。」

……あの。
その手に持ってらっしゃるのはなんでしょうか?
白くて弾丸のようなその形。
そしてあなたはなぜビニール手袋をしてらっしゃるの?

痛み止めは坐薬だった。注射ではなかった。

しまった。その可能性を失念していた。
いきなりこんなところで、おしりに危機が訪れるとは予想だにしていなかった。
ひっつめ髪の看護婦さんは入れる気満々で迫ってくる。

右手に光る白い銃弾
やばいやばいやばいやばい。
ゴンザ、貞操の危機

人間というものは、危機に陥ると驚くべき集中力を発揮する。
看護婦さんの数歩の間に、私は頭脳をフル回転させていた。
何かいい手はないかないかないかないかないか…………。

「あ、あの、ちょっとトイレ行ってきていいですか?」
「ああ、いいですよ。」
「すいません。」
「あ、じゃあこれ自分で入れてこられる?」
「もちろんです。」
「出たら、そのまま破砕室に行きましょう。」

よっしゃあああああ!

トイレに行く→脱ぐ→用を足す→もどる→脱ぐ→坐薬→二度手間。
トイレに行く→脱ぐ→用を足す→坐薬→効率的。
看護婦心理誘導作戦は、見事に成功した。
操は守った。

私は意気揚揚と坐薬を入れると、ピンクのパジャマ姿で点滴スタンドをカラカラ引きながら、破砕室へと向かった。

<つづく>

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 石との闘いR 第4話 成果篇
posted by ゴンザ at 09:00| 静岡 ????| Comment(3) | TrackBack(0) | 医療エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月14日

【自転車】注文したぞ!自転車

先日の日記で購入を検討していることを明かした自転車ですが、ついに決断を下し、注文してしまいました。

色々考えて、やっぱりこれにしました。
Bianchi Rome 2006年モデル
bianchi(ビアンキ)の「rome(ローマ)」2006年モデル。10万以内という予算、デザインのかっこよさ、クロスバイクでややロード寄りの軽快な性能、値段の割にいいパーツを使っているところなど、ほぼゴンザの描いていた理想像に近い車種です。

それにやっぱり、一度くらいはビアンキのチェレステカラーバイクを持ってみたいな、と。

ロックとライトもビアンキ・チェレステにしました。
ビアンキのライト ビアンキのロック

これでブラック×チェレステのトータルコーディネートが完成。生産を待ってのイタリアからの輸入になるので、納車は4月になるそうです。

んー。4月。チャリンコ転がすにはいい季節です。はやっく来ないっかな〜、と久しぶりの大きな買い物に珍しくちょっとテンションが上がってます。

ひとつ悩んでいるのが、防犯対策。要するに「盗まれたらヤダなあ……」ということ。まわりの自転車好きに聞くと、「家ん中置け。常識だ。」と言うんですが、ワンルームのアパートだっつーの、そんなスペースあるかい。

一応、1階に住んでいるので、玄関から上げてベランダに置くことは出来そうなんですが……めんどくさいなあ……。自転車って、気軽に乗れるところがいいのに……。早めに汚して、ぬすっとからの魅力をさげたろか、とか考えてしまってたりします。

うちに来る予定のromeくん。ごめんな。キミのマスターはこういう男やねん。
posted by ゴンザ at 15:03| 静岡 ????| Comment(2) | TrackBack(0) | 自転車 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月13日

【日記】ひなまつりまつり

ふと、このブログのアクセス数などを見てみたら、記事を書いていない3月3日頃に、いきなり普段の倍近い人がご来訪下さっていました。なんだ? どっか掲示板かなんかで話題にでもなったか? とアクセスログを分析してみて、理由が判明しました。

ほとんどが、画像検索でいらした方。そしてその画像は……1年前にゴンザがこのブログにアップした、ひな祭りの絵でした。

記事はこれ⇒ 燃えるひな祭り

そして、その続報記事がこれ⇒ 燃えるひな祭り よくある質問

……季節モノの人気記事になっとったか。「ひな祭り」をキーワードにgoogle画像検索すると、アホなことにものすごい上位に現れたりします。そりゃー目立つわ。オーソドックスなひな祭り画像の中に、こんなんが1枚混じってたら。ふつうにひな祭りの画像探してた人も、ちょっとクリックしてみようかって気にもなるわ。

謎が解けてすっきりしました。

この画像を気に入ってくれたみなさん。今年の旧暦のひな祭りには、ぜひこのたくましいお雛様をデスクトップに飾って、桃の節句をお祝いしてください。
posted by ゴンザ at 18:32| 静岡 ?J| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月12日

【日記】右脳派? 左脳派?

最近は人間の性格、思考、行動などを「脳の働き」から考えるのが流行りのようです。ベストセラー『バカの壁』もそうですし、右脳型・左脳型などの分け方もそう。

で、さっきテレビで『99サイズ』を見ていたら、こんな質問が。
「腕組みしたとき、どっちの腕が上になる?」
さっそく組んでみました。ゴンザの場合は左が上。
「左が上にくると右脳型人間、直感的な考え方。右が上にくると左脳型人間、理論的に考えるタイプやねんて。」

……ほんとか?

その法則からすると、ゴンザは右脳型人間になります。しかし、ゴンザは自他ともに認める理屈の人。直感で行動したりすることなどほとんどなく、ガチガチに論理的に動くやつです。得意分野も、言語・観察と分析・パズルなどで、弱点はデザイン・音楽・空間認識。

完全に左脳系が得意で、右脳系が苦手じゃないですか。こーゆーやつを、バリバリ左脳型人間と呼ぶのではないかと。

会社の人が朝礼のスピーチで言っていたのですが、この「利き脳」を診断する装置があるのだそうです。その名も「ヒューマンセンサー」。予約して検査みたいなのをすると、自分がどんな脳の持ち主か、診断・分析してその結果を教えてくれるようです。

なんでも、大企業の人事政策でこの診断を取り入れているところもあるとか。たとえばソニーのアイボを作ったチームは、この診断で「ゼロからモノを創造する能力」がある人を集めた集団だった、という話です。

むむむむむ! やってみたいなあ! でも、21,000円もかかるのかあ! 高いなあ! 大枚はたいたあげくに「ふつうです。特筆すべきことはありません」みたいな結果が出たらヘコむなあ!

お金に多少の余裕がある今のうちにやってみようか、とちょっと画策しています。
posted by ゴンザ at 01:45| 静岡 ?J| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月10日

【ゴンザの独り言EX】ゴンザと靴とサンダルと(第3回・最終回)

第1回へ← 第2回へ←

翌週の月曜日に、ゴンザは定食屋にサンダルを返しに行った。
サンダルは先日のシンデレラな夜から一転し、哀れにもジャスコの半透明ビニール袋に無造作につっこまれている。

「これ、ありがとうございました」
イマイチ釈然としないお礼を述べてサンダルを返すゴンザに、店員のおばちゃんは
「すいません。まだ連絡は何も……」
と、哀れみをたたえた視線を向けた。

もういい。あの靴のことはあきらめよう。
もう返っては来ないんだ。

そう考えてうなだれていたゴンザの携帯に、定食屋から連絡があったのは、翌日の火曜日だった。
靴を間違えた人が、返しに来たというのである。

これはこれで微妙な状況だ。
拉致されてからあしかけ5日。
あの子はもう以前のあの子ではないかもしれない。

何らかの洗脳を受けていたらどうしよう。
たちの悪い水虫菌的な。
ファブリーズをイヤってほどかけた後、しばらく天日干しにしてから社会復帰させようか。

そんなひそやかな悩みを抱えつつ、ゴンザは水曜日に定食屋へ出向いた。

ゴンザの顔をすっかり覚えた店員のおばちゃんが、笑顔で走り寄ってきた。
「昨日、間違えた方が持ってらしたんですよ。」
「そうらしいですね。」
「えーと、ああ、これ、こちらです。」
おばちゃんは手柄顔で、レジ裏から取り出した紙袋を広げて見せた。

「ああどうも……あ?」
「?」
「…………」

袋をのぞきこんだゴンザは、自分の眼を疑った。
受け取ろうとして伸ばした手が凍りついた。
いったいどういうことなんだ、これは。

早く受け取れ、とばかりに袋をつき出すおばちゃんに、ゴンザは声を絞り出した。

「あの……これじゃないです。」
「は?」
「これ、違います。僕のじゃないです。」
「はあ?」

袋に入っていた靴は、見たことのないシロモノだった。
たしかにこの前残っていた靴とは、違う靴になっている。
しかし、この靴もまたゴンザのものではなかったのである。

「この靴じゃ、ないんですか? ほんとに?」
おばちゃんは良く見ろとばかりに袋の口を広げる。

何度見せられても、こんな靴は知らんのだ。

むしろこの前の靴のほうが、似ていたかもしれない。
ウォーキングタイプだった私の靴が、段階を経てビジネスシューズ寄りに変化している。
ちょっと見ない間に、えらい変りようだ。

「違います。これじゃないです。」
ゴンザはきっぱりと否定した。

「…………」
いや、そんな眼で見られても。

おばちゃんは納得のいかない顔で言う。
「これ持ってらした方は、残っていた靴見て、ああこれこれ、って持って帰ったんですけど。」

なんだその「わがまま言うなお前もこれにしとけ」的な言い草は。
違うものは違うのだ。
こんな子はうちの子じゃないのだ。

「これを持ってこられた方の連絡先は聞いてないんですよねえ…
 こんなことになると思わなかったし…」
「…………」

ランチタイムで混み合う定食屋の店内。
ゴンザとおばちゃんは途方にくれた。

  ◇

とりあえず様子を見る、進展があったら連絡をもらう、ということで再び話をつけ、お昼を食べることにした。
座敷にあがって、改めて考える。

結局のところ何も進展していない。
むしろ悪化している。
見覚えのない靴が、さらに見覚えのない靴に入れ替わっているのだ。
いったいどういうことなのだろう。

気になったのは店員が漏らした
「この靴は、間違えた本人ではなくて奥さんが返しに来た」
という情報だ。

となると、「これ、返しといてくれ」とダンナに頼まれた奥さんが、さらにそこでも間違えて、ダンナの他の靴を持って交換に来たというケースが考えられる。

間違えて靴を履いていった人物を「男A」とし、その靴を「靴A」とする。
[男A:靴A]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男A、ゴンザの靴を履いていく。
ゴンザ、やむなくサンダル。
[男A:ゴンザの靴]
[定食屋:靴A]
[ゴンザ:サンダル]
 ↓
男A、間違いに気づき靴の返却を妻に依頼。
妻、誤って男Aの他の靴「靴A´」を持っていき、「靴A」と交換。
[男A:ゴンザの靴+靴A]
[定食屋:靴A´]
[ゴンザ:無駄におニューの靴]

このケースでは、ゴンザの靴は男Aとその妻の家にあることになる。
夫婦でなにしてくれてるんだ。
事態をむやみに複雑化させないでくれ。


もう一つ考えられるのが第三の男説。
実は靴を間違えられたのはゴンザだけでないという可能性だ。
「男B」とその靴「靴B」を加えて考えてみよう。

[男A:靴A]
[男B:靴B]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男A、間違えて靴Bを履いていく。
[男A:靴B]
[男B:靴A]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男B、自分の靴がなかったので、確信犯的にゴンザの靴を履いていく。
ゴンザ、サンダル男と化す。
[男A:靴B]
[男B:ゴンザの靴]
[ゴンザ:サンダル]
[定食屋:靴A]

このケースでは男A・男B・ゴンザ・定食屋の四者は、お互いのはきものを1つずつずらしたことになる。

なんだこれは。クリスマス会のプレゼント交換か。

そして火曜日の時点では、

男A、間違いに気づき定食屋に返却・交換。
[男A:靴A]
[男B:ゴンザの靴]
[定食屋:靴B]
[ゴンザ:不本意におニューの靴]

すべての元凶である男Aの元に靴Aは戻っているが、ゴンザの靴は、確信犯的な男Bの元に拉致されているわけだ。
こうなるともう、靴が返却されてくる可能性はゼロに近い。

だめだ。あの子はもう帰ってこないよ、母さん。
最初からいなかったと思って、あきらめよう。
ほら、僕らにはこの子がいるじゃないか。
この子と一緒に、新しい生活を始めるんだ。

そうは言いつつも、未練の残るゴンザは定食屋に行くたびに店員に目顔で「靴は……?」と尋ねる。
すると店員のおばちゃんは「残念だ」というように、首を振る。
そしてゴンザは肩を落とし、さびしくランチを注文するのだ。

定食屋では、今日もひそやかな無言劇が展開されているのであった。

  ◇

2005年12月。
事件の真相は、闇の中に消えていった。
ゴンザの靴は、まだ発見されていない。

<おわり>

[特別映像]定食屋で借りたサンダル
レンタルサンダル

第1回へ← 第2回へ←
posted by ゴンザ at 14:37| 静岡 ????| Comment(2) | TrackBack(0) | 「ゴンザの独り言」EX | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月07日

【ゴンザの独り言EX】ゴンザと靴とサンダルと(第2回)

第1回へ← →第3回(最終回)へ

イルミネーションきらめく12月の静岡の街なみを、ゴンザは歩いていた。
スーツにコートをはおり、マフラーまで巻いていたが、その暖かそうな装いを唯一裏切るのが、足元のサンダルだった。

寒い。師走の空の下では、サンダルは通気性が良すぎる
かくなる上は、一刻も早く靴を入手せねばならない。

ゴンザは靴屋につくと、躊躇することなく扉を押し開いた。
ここで一瞬でもためらうと、果てしなく入りにくくなることを、ゴンザは本能的に悟っていた。

「いらっしゃいませ。」
出迎えてくれた女性店員の視線が、ついっと足元に向かう。
客が今履いている靴をチェックするのは、靴屋として基本中の基本らしい。

サイズはいくつくらいなのか?
足の形の特徴は?
デザインの好みは?

そういった情報と、これまでの経験をベースにして、接客プランを一瞬のうちにまとめるのが、一流の店員というものなのだ。

そんな店員の眼に入った情報。
それはサンダル。
冬にサンダル。スーツにサンダル。コートにサンダル。

彼女の上体がわずかに揺れた。

動揺したな?
これまでの経験になかったな?
意味なく「ちょっと勝った」気分になる。

ゴンザはウォーキングタイプの靴が並べてあるコーナーを物色し始めた。
斜め後ろに控えていた店員が、遠慮がちに声を掛けてくる。
「あの……ウォーキングシューズをお探しですか?」
ゴンザは「ええ。スーツにも合うやつを。」とつつましやかにうなずいた。

「それでしたら、こちらとこちらが現在おすすめです。
 サイズお出ししますんで、履いてみてください。」
店員は救われたような顔で言った。
サンダルくれ」と言われたらどうしようと思っていたのかもしれない。

ゴンザはソファに座り、店員が薦める靴をかわるがわる履いてみた。
わきにはゴンザが履いてきた古いサンダルが鎮座している。
店員は、不自然なくらいそのサンダルを正視しない。

「……こちらのタイプは少々大きめに作られてまして……」
「……デザイン的には、こちらのほうが面白いですよね……」

どうやら、彼女は
<お客様はサンダルなど履いては来なかった>
というスタンスを貫くことに決めたらしい。

「……ブラウンもあるんですが、現在在庫が……」

なんだろうこの寂しさと居心地の悪さは。

「……最近は先が四角い感じの造りが……」

ボケたのにツッコんでもらえない若手芸人のような気分だ。

「……皮をやわらかく加工してあって……」

……だめだ。
真実から眼をそむけて演じられるこの時間と空間。
私には耐えられない。
ゴンザはついにカミングアウトした。

「あのー。」
「はい?」
「実は今日、靴を盗まれちゃいまして」
「え?」
「座敷形式のお店でお昼を食べて、帰ろうとしたら靴がなかったという……」

「あ。あー! そうなんですか! あー!」
店員の顔が急に晴れやかになった。
心に引っかかっていた疑問が氷解した晴れやかさ。
これが最近流行の「アハ体験」というやつだろう。

「どうなさったのかなあ、って思ってたんですよ。
 足がお悪いのかなあ、とか。
 お店で履いていかれちゃったんですかー。
 それは大変でしたねえ。
 いい靴を履いてらしたんでしょう?」
サンダル一足がかもし出す緊張感が解け、急速にその場の空気はほぐれた。

やはり、真実は人を自由にする。

「で、こちらの靴がよろしいんじゃないかと思うんですが。」
「はい。」
「ちょっと大き目みたいですね。」
「そうみたいですね。」
「こちら、いまちょっとサイズがないんで、
 お取り寄せになってしまうんですが、いいですか?」

いいわけがあるか。あんた、自由になりすぎだ。

ですよねえ〜とうなずく店員に、ゴンザは今ある在庫の中でサイズの合うものを探してきてもらい、それを購入することにした。
税込16,800円。
こうして2005年冬のボーナスは、支給当日からその用途が見つかることになった。

「じゃ、それ履いて帰るんで、タグ切ってください。」
あらかじめ用意してあったセリフを店員に言う。
「かしこまりました。」
ここで、彼女の上体がまたわずかに揺れた。
「で、このサンダルは……?」

捨てるわけにもいかない。

「……持って帰ります。お店に返さないといけないんで。」
「かしこまりました。」

彼女は便所サンダルをうやうやしく捧げ持った。
何をする気だ、と思って見ていると、店員はおもむろにそのサンダルを、さっきまで16,800円の靴が入っていた箱にしまい始めた。

えええええ。
ちょっと。
箱の中で、左右互い違いに並べなおしてるよこの人。
なんかふわふわの紙に、サンダルがつつまれてるよ。
そしてその箱が、さらに紙袋に入れられたよ。

便所サンダル、いきなりの厚遇。
一夜限りの、サンダル・シンデレラ。

「ありがとうございましたー。」

やけに軽いその紙袋をぶら下げながら、ゴンザは帰途についた。

靴を履いてるって、すてき。
足元がすぅすぅしないって、すてき。
失って初めてわかる幸せって、あるのね。

この時のゴンザは、事件はこれで終わったと思っていた。
しかし、後日さらなる出来事がゴンザを待ち受けていたのである。

(つづく)

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posted by ゴンザ at 22:29| 静岡 ????| Comment(3) | TrackBack(0) | 「ゴンザの独り言」EX | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする