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ゴンザは昨年の12月8日、静岡市街のとある定食屋にお昼を食べに出向いた。
その定食屋は、店の広さとランチが出てくるスピード、そしてイマイチの味と感動的なまでに手際の悪い店員「ちっちゃいおばちゃん」で有名な店である。
この店は基本的に座敷スタイルで、靴を脱いで座卓につくことになっている。団体客が入っているらしく、座敷の前にはたくさんの靴が並んでいた。
いつものようにまったりと昼食を終え、1時10分前くらいに店を出ようと立ち上がった。
そしてゴンザは当惑した。
……あれ? 俺、今日どんな靴履いて来たっけ?
黒? 茶? えーと黒だよな。黒の紐靴タイプだ。そうそう。
えーと。えーと。ないね。うん、ないね。
確かにゴンザの靴はなかった。どこにもなかった。
代わりに、すっかり無人になっている座敷の前に、古ぼけた靴が1足ぽつんと残っていた。
うそん。うそーーーーーーーーーーーーん。
誰かが間違えて履いていったの?
それにしちゃあ、あんまり似てないよこの靴?
人の靴じゃ、履いたときに違和感あるでしょ?
足に神経かよってないの、ねえ?
呆然とするゴンザの横で、ちっちゃいおばちゃんが半笑いしていた。
とりあえず、間違えて履いていった人が戻ってきたら連絡をもらう、ということで話をつけて店を出た。
その足元を飾るのは店から貸し出されたレンタルサンダルだ。
飲み会中、便所に行くときに履くアレである。
スーツにサンダルで外を歩く男。
俺は気のいい校長先生か。
擦り切れた便所サンダルを見ながら、
「しまった。いくつかあるうちで、一番いいサンダルを選んでくるべきだった。」
と低レベルの後悔をしてしまう。
なんだろう、この激しくヘコむ感じは。
自分はいっこも悪くないのに、ものっすごいテンションが下がる。
この後、どうしたらいいのだろう。
靴が見つかる可能性は低そうだ。
悪意のある「盗難」だったら絶対に返ってこないし、悪意のない「うっかり」だったとしても、恥ずかしくて名乗り出てこない恐れがある。
よしんば戻ってきたとしても、知らないオッサンが1日はいていた靴を引き続き装着するのは、リスクが大きすぎる。
呪いの装備かもしれない。
ものごっつい水虫の人だったらどうするのだ。
この前皮膚科で「水虫の菌はいませんね」と言われたというのに。
もっと短期の心配で言えば、今日をどう過ごそう。
このままサンダル姿で電車に乗って帰るのは、かなりきびしい。
私は気が小さいので、車両に居合わせた全員が自分のつま先を鑑賞しているという被害妄想に取りつかれるだろう。
仕方がない。帰りに靴を買って帰ろう。
サンダル履きでふらりと靴屋へ寄る私。
店員の不審そうな視線に耐えながら、買うべき靴を決め、支払いの段になってこう切り出す。
「それ履いて帰るんで、タグ切ってください。」
どんな客だ。
妙齢の女性が、折れたハイヒールを片手に言うなら様になるが、それを言うのが私では
(おっきな犬のウ○コでも踏んだのね)
と思われるのがオチだ。
さらに今日はボーナス日だ。店員は心の中で思うかもしれない。
(この人、ボーナス出るまで、サンダルでがんばってたのね。
困窮! とっても哀れ! この靴でなんとか冬を乗り切ってね!)
限りなくやさしいまなざしでゴンザを見送ってくれる店員。
ちがう! そんなんじゃないんだ!
やばい。考えているとどんどん落ち込んでいく。
ネガティブ・スパイラルにはまっている自分を感じる。
もういい。こうしよう。
靴屋に入るときに、開口一番元気良くこう言うのだ。
「いやあ! 今日靴盗まれちゃってさあ!
1足みつくろってくんな、姉ちゃん!」
勇気を持って真実を。それが何にも勝るとゴンザは思うのである。
(つづく)
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2006年02月21日
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