2006年03月07日

【ゴンザの独り言EX】ゴンザと靴とサンダルと(第2回)

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イルミネーションきらめく12月の静岡の街なみを、ゴンザは歩いていた。
スーツにコートをはおり、マフラーまで巻いていたが、その暖かそうな装いを唯一裏切るのが、足元のサンダルだった。

寒い。師走の空の下では、サンダルは通気性が良すぎる
かくなる上は、一刻も早く靴を入手せねばならない。

ゴンザは靴屋につくと、躊躇することなく扉を押し開いた。
ここで一瞬でもためらうと、果てしなく入りにくくなることを、ゴンザは本能的に悟っていた。

「いらっしゃいませ。」
出迎えてくれた女性店員の視線が、ついっと足元に向かう。
客が今履いている靴をチェックするのは、靴屋として基本中の基本らしい。

サイズはいくつくらいなのか?
足の形の特徴は?
デザインの好みは?

そういった情報と、これまでの経験をベースにして、接客プランを一瞬のうちにまとめるのが、一流の店員というものなのだ。

そんな店員の眼に入った情報。
それはサンダル。
冬にサンダル。スーツにサンダル。コートにサンダル。

彼女の上体がわずかに揺れた。

動揺したな?
これまでの経験になかったな?
意味なく「ちょっと勝った」気分になる。

ゴンザはウォーキングタイプの靴が並べてあるコーナーを物色し始めた。
斜め後ろに控えていた店員が、遠慮がちに声を掛けてくる。
「あの……ウォーキングシューズをお探しですか?」
ゴンザは「ええ。スーツにも合うやつを。」とつつましやかにうなずいた。

「それでしたら、こちらとこちらが現在おすすめです。
 サイズお出ししますんで、履いてみてください。」
店員は救われたような顔で言った。
サンダルくれ」と言われたらどうしようと思っていたのかもしれない。

ゴンザはソファに座り、店員が薦める靴をかわるがわる履いてみた。
わきにはゴンザが履いてきた古いサンダルが鎮座している。
店員は、不自然なくらいそのサンダルを正視しない。

「……こちらのタイプは少々大きめに作られてまして……」
「……デザイン的には、こちらのほうが面白いですよね……」

どうやら、彼女は
<お客様はサンダルなど履いては来なかった>
というスタンスを貫くことに決めたらしい。

「……ブラウンもあるんですが、現在在庫が……」

なんだろうこの寂しさと居心地の悪さは。

「……最近は先が四角い感じの造りが……」

ボケたのにツッコんでもらえない若手芸人のような気分だ。

「……皮をやわらかく加工してあって……」

……だめだ。
真実から眼をそむけて演じられるこの時間と空間。
私には耐えられない。
ゴンザはついにカミングアウトした。

「あのー。」
「はい?」
「実は今日、靴を盗まれちゃいまして」
「え?」
「座敷形式のお店でお昼を食べて、帰ろうとしたら靴がなかったという……」

「あ。あー! そうなんですか! あー!」
店員の顔が急に晴れやかになった。
心に引っかかっていた疑問が氷解した晴れやかさ。
これが最近流行の「アハ体験」というやつだろう。

「どうなさったのかなあ、って思ってたんですよ。
 足がお悪いのかなあ、とか。
 お店で履いていかれちゃったんですかー。
 それは大変でしたねえ。
 いい靴を履いてらしたんでしょう?」
サンダル一足がかもし出す緊張感が解け、急速にその場の空気はほぐれた。

やはり、真実は人を自由にする。

「で、こちらの靴がよろしいんじゃないかと思うんですが。」
「はい。」
「ちょっと大き目みたいですね。」
「そうみたいですね。」
「こちら、いまちょっとサイズがないんで、
 お取り寄せになってしまうんですが、いいですか?」

いいわけがあるか。あんた、自由になりすぎだ。

ですよねえ〜とうなずく店員に、ゴンザは今ある在庫の中でサイズの合うものを探してきてもらい、それを購入することにした。
税込16,800円。
こうして2005年冬のボーナスは、支給当日からその用途が見つかることになった。

「じゃ、それ履いて帰るんで、タグ切ってください。」
あらかじめ用意してあったセリフを店員に言う。
「かしこまりました。」
ここで、彼女の上体がまたわずかに揺れた。
「で、このサンダルは……?」

捨てるわけにもいかない。

「……持って帰ります。お店に返さないといけないんで。」
「かしこまりました。」

彼女は便所サンダルをうやうやしく捧げ持った。
何をする気だ、と思って見ていると、店員はおもむろにそのサンダルを、さっきまで16,800円の靴が入っていた箱にしまい始めた。

えええええ。
ちょっと。
箱の中で、左右互い違いに並べなおしてるよこの人。
なんかふわふわの紙に、サンダルがつつまれてるよ。
そしてその箱が、さらに紙袋に入れられたよ。

便所サンダル、いきなりの厚遇。
一夜限りの、サンダル・シンデレラ。

「ありがとうございましたー。」

やけに軽いその紙袋をぶら下げながら、ゴンザは帰途についた。

靴を履いてるって、すてき。
足元がすぅすぅしないって、すてき。
失って初めてわかる幸せって、あるのね。

この時のゴンザは、事件はこれで終わったと思っていた。
しかし、後日さらなる出来事がゴンザを待ち受けていたのである。

(つづく)

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posted by ゴンザ at 22:29 | 静岡 ☁ | Comment(3) | TrackBack(0) | 「ゴンザの独り言」EX | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
久々です…こんなに先が楽しみな話って。ゴンザさんの靴の行方は?!犯人は誰?!
Posted by ちかぼー at 2006年03月07日 22:44
はじめまして麗奈です。「新ゴンザの独り言」を読んだのがきっかけで、ゴンザさんの存在を知りました。好きです・・・語り口がとっても好き。やわらかで、洒脱で、いいです。今後の展開を期待してます。
Posted by 麗奈☆ at 2006年03月09日 05:04
>ちかぼーさん
最終話アップしました。ロードオブザリングに匹敵する壮大な三部作。さあ、ことの真相は?

>麗奈☆さん
わ。なんか告白受けちゃった。「新ゴンザの独り言」とは直接リンクしてないんですが、見つかっちゃいましたか。まー、このブログはほんとに個人的なものなので、のたのたとローペースで更新してます。思い出したときにご訪問くだされ。
Posted by ゴンザ at 2006年03月10日 14:59
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