2006年03月10日

【ゴンザの独り言EX】ゴンザと靴とサンダルと(第3回・最終回)

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翌週の月曜日に、ゴンザは定食屋にサンダルを返しに行った。
サンダルは先日のシンデレラな夜から一転し、哀れにもジャスコの半透明ビニール袋に無造作につっこまれている。

「これ、ありがとうございました」
イマイチ釈然としないお礼を述べてサンダルを返すゴンザに、店員のおばちゃんは
「すいません。まだ連絡は何も……」
と、哀れみをたたえた視線を向けた。

もういい。あの靴のことはあきらめよう。
もう返っては来ないんだ。

そう考えてうなだれていたゴンザの携帯に、定食屋から連絡があったのは、翌日の火曜日だった。
靴を間違えた人が、返しに来たというのである。

これはこれで微妙な状況だ。
拉致されてからあしかけ5日。
あの子はもう以前のあの子ではないかもしれない。

何らかの洗脳を受けていたらどうしよう。
たちの悪い水虫菌的な。
ファブリーズをイヤってほどかけた後、しばらく天日干しにしてから社会復帰させようか。

そんなひそやかな悩みを抱えつつ、ゴンザは水曜日に定食屋へ出向いた。

ゴンザの顔をすっかり覚えた店員のおばちゃんが、笑顔で走り寄ってきた。
「昨日、間違えた方が持ってらしたんですよ。」
「そうらしいですね。」
「えーと、ああ、これ、こちらです。」
おばちゃんは手柄顔で、レジ裏から取り出した紙袋を広げて見せた。

「ああどうも……あ?」
「?」
「…………」

袋をのぞきこんだゴンザは、自分の眼を疑った。
受け取ろうとして伸ばした手が凍りついた。
いったいどういうことなんだ、これは。

早く受け取れ、とばかりに袋をつき出すおばちゃんに、ゴンザは声を絞り出した。

「あの……これじゃないです。」
「は?」
「これ、違います。僕のじゃないです。」
「はあ?」

袋に入っていた靴は、見たことのないシロモノだった。
たしかにこの前残っていた靴とは、違う靴になっている。
しかし、この靴もまたゴンザのものではなかったのである。

「この靴じゃ、ないんですか? ほんとに?」
おばちゃんは良く見ろとばかりに袋の口を広げる。

何度見せられても、こんな靴は知らんのだ。

むしろこの前の靴のほうが、似ていたかもしれない。
ウォーキングタイプだった私の靴が、段階を経てビジネスシューズ寄りに変化している。
ちょっと見ない間に、えらい変りようだ。

「違います。これじゃないです。」
ゴンザはきっぱりと否定した。

「…………」
いや、そんな眼で見られても。

おばちゃんは納得のいかない顔で言う。
「これ持ってらした方は、残っていた靴見て、ああこれこれ、って持って帰ったんですけど。」

なんだその「わがまま言うなお前もこれにしとけ」的な言い草は。
違うものは違うのだ。
こんな子はうちの子じゃないのだ。

「これを持ってこられた方の連絡先は聞いてないんですよねえ…
 こんなことになると思わなかったし…」
「…………」

ランチタイムで混み合う定食屋の店内。
ゴンザとおばちゃんは途方にくれた。

  ◇

とりあえず様子を見る、進展があったら連絡をもらう、ということで再び話をつけ、お昼を食べることにした。
座敷にあがって、改めて考える。

結局のところ何も進展していない。
むしろ悪化している。
見覚えのない靴が、さらに見覚えのない靴に入れ替わっているのだ。
いったいどういうことなのだろう。

気になったのは店員が漏らした
「この靴は、間違えた本人ではなくて奥さんが返しに来た」
という情報だ。

となると、「これ、返しといてくれ」とダンナに頼まれた奥さんが、さらにそこでも間違えて、ダンナの他の靴を持って交換に来たというケースが考えられる。

間違えて靴を履いていった人物を「男A」とし、その靴を「靴A」とする。
[男A:靴A]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男A、ゴンザの靴を履いていく。
ゴンザ、やむなくサンダル。
[男A:ゴンザの靴]
[定食屋:靴A]
[ゴンザ:サンダル]
 ↓
男A、間違いに気づき靴の返却を妻に依頼。
妻、誤って男Aの他の靴「靴A´」を持っていき、「靴A」と交換。
[男A:ゴンザの靴+靴A]
[定食屋:靴A´]
[ゴンザ:無駄におニューの靴]

このケースでは、ゴンザの靴は男Aとその妻の家にあることになる。
夫婦でなにしてくれてるんだ。
事態をむやみに複雑化させないでくれ。


もう一つ考えられるのが第三の男説。
実は靴を間違えられたのはゴンザだけでないという可能性だ。
「男B」とその靴「靴B」を加えて考えてみよう。

[男A:靴A]
[男B:靴B]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男A、間違えて靴Bを履いていく。
[男A:靴B]
[男B:靴A]
[ゴンザ:ゴンザの靴]
[定食屋:サンダル]
 ↓
男B、自分の靴がなかったので、確信犯的にゴンザの靴を履いていく。
ゴンザ、サンダル男と化す。
[男A:靴B]
[男B:ゴンザの靴]
[ゴンザ:サンダル]
[定食屋:靴A]

このケースでは男A・男B・ゴンザ・定食屋の四者は、お互いのはきものを1つずつずらしたことになる。

なんだこれは。クリスマス会のプレゼント交換か。

そして火曜日の時点では、

男A、間違いに気づき定食屋に返却・交換。
[男A:靴A]
[男B:ゴンザの靴]
[定食屋:靴B]
[ゴンザ:不本意におニューの靴]

すべての元凶である男Aの元に靴Aは戻っているが、ゴンザの靴は、確信犯的な男Bの元に拉致されているわけだ。
こうなるともう、靴が返却されてくる可能性はゼロに近い。

だめだ。あの子はもう帰ってこないよ、母さん。
最初からいなかったと思って、あきらめよう。
ほら、僕らにはこの子がいるじゃないか。
この子と一緒に、新しい生活を始めるんだ。

そうは言いつつも、未練の残るゴンザは定食屋に行くたびに店員に目顔で「靴は……?」と尋ねる。
すると店員のおばちゃんは「残念だ」というように、首を振る。
そしてゴンザは肩を落とし、さびしくランチを注文するのだ。

定食屋では、今日もひそやかな無言劇が展開されているのであった。

  ◇

2005年12月。
事件の真相は、闇の中に消えていった。
ゴンザの靴は、まだ発見されていない。

<おわり>

[特別映像]定食屋で借りたサンダル
レンタルサンダル

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posted by ゴンザ at 14:37 | 静岡 ☀ | Comment(2) | TrackBack(0) | 「ゴンザの独り言」EX | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 こんにちは、はじめまして。
 職場ではいている便所サンダルが大破して、代わりを買おうとぐぐっていたらここにたどり着きました。
 まだ職場なのに、サラリーマンの昼時に起こりそうな身近な恐怖におもわず笑ってしまったじゃないか!
Posted by AMP at 2007年03月15日 15:17
どうも、はじめまして。
よくまあ、こんな長い話をわざわざ読んでくださいましたねえ。それに、何故ショッピング目当てでググってここに迷い込んだのかが私にはさっぱりです。

この話は全て実話です。脚色も加えていない、ほぼ現実に起きたことの再現です。サラリーマンの生活には、実はたくさんの危険が潜んでいるのです。今ここにある危機。
Posted by ゴンザ at 2007年03月19日 21:58
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