2005年02月24日

謎解き『イニシエーション・ラブ』 第1章 時制のトリック

【追記 2015.5.23.Sat】
映画『イニシエーション・ラブ』観てきました



【警告!】
この下の文は小説『イニシエーション・ラブ』のネタばらし解説です!
『イニシエーション・ラブ』を読んだことのある人以外は、この下の記事を読むのは絶対にやめましょう!
かなりの長文なので、文字反転などのテクニックも使っていません!















【目次】
  序章  時系列データ
  第1章 時制のトリック
  第2章 すり替えのトリック
  第3章 交錯ポイントと心理の動き
  第4章 暗示と象徴
  第5章 「静岡ローカル小説」としての『イニシエーション・ラブ』
  第6章 おまけ


第1章 時制のトリック
A面の1年後がB面、というように見せておいて、実はA面とB面はほぼ同時進行。

最後の2行で、たっくんがA面とB面で別人であることに気がついたのに、この時制のトリックを見抜けなかった人もいるみたいです。「なーんだ、逆なのか。時系列はB面⇒A面なんだね。マユは夕樹を元彼の辰也と似た男に育てたかったから、ファッションチェックしたり、免許取らせたりしたのかー」という勘違い。これはなぜか女性読者に多いようです。

1−1)男女7人シリーズ
全編を通じて伏線およびミスリードとして出てくる、80年代後半の大ヒットドラマです。明石家さんま&大竹しのぶ元夫妻の結婚のきっかけがこのドラマであることは、あまりにも有名です。

男女7人夏物語』が1986年の7月〜9月放映。


男女7人秋物語』が1987年の10〜12月の放映でした。


作品内は、もちろん1987年の『秋物語』放映時。B面で『男女7人』の話題が出るとき、読者は「1年前」の『男女7人秋物語』のことだと思って読んでしまうわけですが、実はさらにその前年の『男女7人夏物語』のことなのです。

「あっ、凄い。これってアレでしょ?」
「そうそう」
「『男女7人』でみんなが飲んでいた、あのゴボッってなるやつ。こんなの売ってるんだ。」
(B面150ページ10行目)

『男女7人』という略称は当時も一般的だったので、その下が「夏」なのか「秋」なのかを読み手は勝手に補ってしまいます。しかし、ブーツ型ジョッキが話題になったのは『夏物語』のはず。B面がA面の1年後を描いているとすると、およそ2年前のドラマで流行ったものをプレゼントしているわけで、

「でもこれ、たぶんいろいろある中でも、私的には一番だと思う。たっくんの選択眼、サイコー。」
(B面150ページ15行目)

とはならないでしょう。これを実際の1987年の7月と読みかえても、『夏物語』放映から1年が経過しているので、オシャレな選択とは言い難いかもしれません。が、この時には続編『秋物語』開始のニュースもあったでしょうし、この日はマユが晴れてお酒の飲める歳、20歳になった日ですから、「ブーツ型ジョッキ」という選択も「アリ」ですね。

『男女7人秋物語』は時制トリックの重要なキー。これによってA面が1987年であることが確定され、どんでん返しの直前にB面にも登場することで「同時進行」の事実を明らかにします。

1−2)国鉄・JRの呼称
国鉄が民営化され、JRと呼称を変えたのは1987年の4月1日です。A面は『男女7人秋物語』放映という事実で明らかになるとおり、1987年の夏から冬。B面がその1年後であるなら、1988年のお話のはずですが、

駅の方向に並んで歩きながら、「石丸さんは地下鉄?」と聞くと、
「あ、国電です」と言ってからすぐに舌を出し、「──じゃなくてJR。田町駅です」と訂正した。国鉄が民営化されてから数ヶ月が経つが、JRという社名には僕もまだ馴染んでいなかったので、別に訂正しなくてもいいのにと思った。(B面178ページ14行目)

と言っています。逆に、その1年前のはずのA面で

詳しいと自信を持って言えるのは、大学周辺と自分のアパートの近所と、今までに受け持った数軒の家庭教師先までの道筋と、あとはJRの駅近辺についてならば多少は、といった程度でしかない。(A面49ページ14行目)

などとさらっとJRという呼称を使っています。B面で「変更されたばかり」の「JR」が、ずーっと以前のはずのA面で当たり前のように使われているわけで、あきらかに矛盾します。

A面のこの場面は1987年8月14日で、B面のほうは1987年7月13日。実際にはB面のほうが1ヶ月も前になるんですね。















1−3)BOOWY
B面で辰也が静岡に帰ってくるときのくだりに、

ドライブの間はFMを聞いて何も考えないようにしていた。ラジオではBOOWYのニューアルバムの収録曲が紹介されていて、僕はそのビートに酔いながら高速を飛ばしていた。(B面237ページ16行目)

というのがあります。B面がA面の1年後であれば、この日は1988年9月19日なのですが、BOOWYは1988年の4月4日・5日の「LAST GIGS」をもって、すでに解散していますから「ニューアルバム」が出るわけがありません。このときの「ニューアルバム」は1987年9月5日に発売され、初登場1位をとった6thアルバムにして最後のアルバム『PSYCHOPATH』のことになります。

1−4)中表紙と目次
中表紙および目次にも伏線があります。

SIDE-AとSIDE-B。第1部、第2部ではなく、A面とB面となっており、章の名前はラブソングの曲名です。そしてA面とB面の表紙部分のデザインはドーナツ状の円。
A面中表紙
つまり、本全体の構成がアナログレコードを模しているわけです。

これが意味するのは、A面とB面は「続き」ではなく「表と裏」だということ。若い世代には、すでにわかりにくい暗示なのかもしれませんが。

また、手元に本がある人は表紙を見てみましょう。右下にプラスチックの箱がありますが、これはオーディオカセットのケースです。
カセット

よーく見るとインデックス部分に曲名が書かれていて、それがこの本の章立てとなっている曲名なのです。目をこらせば「木綿のハンカチーフ」「夏をあきらめて」あたりは判読できます。

アナログレコードだけでなく、カセットテープという小道具も使って「A面とB面は表と裏だよ」と読者に囁きかけているわけです。つくづく手が込んでいますね。

トリック解説という本筋からは外れますが、ここでちょっと章立てに使われている曲について解説をしておきましょう。すべて80年代を中心としたヒットナンバーで、現在30代以上の人にとっては大変懐かしい曲ばかりです。A面はハッピーな曲、B面はアンハッピーな曲で占められています。

■A面
曲名
アーティスト
発表年
揺れるまなざし小椋佳1976年
君は1000%1986オメガトライブ1986年
Yes-Noオフコース1980年
Lucky Chanceをもう一度CCB1985年
愛のメモリー松崎しげる1977年
君だけに少年隊1987年

■B面
曲名
アーティスト
発表年
木綿のハンカチーフ太田裕美1975年
DANCE浜田省吾1984年
夏をあきらめてサザンオールスターズ
研ナオコによるカバー
1982年
心の色中村雅俊1981年
ルビーの指輪寺尾聰1981年
SHOW ME森川由加里1987年

すべて物語の中の年である1987年以前に発表された曲のようです。

この本に杉山清貴という名前が出てきます。

唯一持っていたアロハを、Tシャツの上に重ねてみる。サングラスを掛けて杉山清貴を気取ってみようかとも思ったのだが、(A面27ページ1行目)

杉山清貴は「オメガトライブ」というバンドのボーカル。杉山清貴がソロに転身した後、「オメガトライブ」は、日系ブラジル人であるカルロス・トシキを新たにボーカルに迎えて「1986オメガトライブ」を結成しました。『君は1000%』は、その「1986オメガトライブ」のヒットナンバー。その後「1986オメガトライブ」は「カルロス・トシキ&オメガトライブ」と改名しています。

『DANCE』は浜田省吾の曲でいいと思うんですが、ちょっと自信ありません。他のメジャーさに比べて、この曲だけ妙にマイナーなんですよね。乾くるみ氏の思い出の曲なんでしょうか。

『夏をあきらめて』は本家のサザンオールスターズよりも、カバーした研ナオコ版のほうが有名ですね。カバーというよりは、研ナオコに提供した曲をサザンも歌っていると言ったほうが近いかもしれません。『世界に一つだけの花』におけるスマップと槇原敬之のような関係。

『SHOW ME』は1−1で扱った『男女7人秋物語』の主題歌です。キーとなっているドラマの最終回とほぼ同時に迎える物語のラストが、その主題歌の名前をつけた章で、意味は「私に見せて」。「さあ、最後に衝撃の事実を見せるよー」というわけですね。

歌つながりで蛇足を1つ。D-51の歌に「ハイビスカス」というのがありますが、この歌詞がA面夕樹のシチュエーションと思いっきり似ていて、ちょっと笑ってしまいました。

私の好きな本


『御宿かわせみ』シリーズ 平岩弓枝

時代小説。
江戸を舞台に奉行所与力の弟・東吾と、おさなじみ・るいの恋と事件が描かれます。
情感あふれる細やかな文章が見事です。



【目次】
  序章  時系列データ
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posted by ゴンザ at 19:30 | 静岡 ☁ | Comment(3) | TrackBack(1) | 小論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「イニシエーション・ラブ」の時系列順の表、すごく助かりました! 自分は平成生まれなので、80年代のことはほとんど分からず本の解説を読んでもいまいちピンとこなかったのですが・・・ゴンザ様のページのおかげで物語を十分理解することができました。 ありがとうございました。
Posted by をれえぬ at 2013年04月01日 13:02
解説、拝読させていただきました!
B面はアンハッピーな曲で占められている、という文を読んで思ったのですが、木綿のハンカチーフの歌詞とB面の内容は似てますね。
上京した彼が都会に染められて彼女を振る・・・
繭子が、化粧っけが無いところも若干ですがかぶっているような!
Posted by どら at 2014年05月25日 09:58
どんでん返しが面白い小説、というので紹介されていたので、今更読んでみました。
A面でマユの誕生日が木曜日だったと合コンで話していて、B面でも初めにすぐ転勤の話で2日は木曜日とわかるので、同じ年の話なんだなぁとわかってしまいますね〜
残念。
そして読み返したら、一番目もタッくん。二番目もタッくん。三番目もタッくん。
というセリフがあって、もしかして辰也の子供ではなくて、辰也と夕樹の他にもタッくんがいたのかとさえ思えてきました。
これからもずっとタッくん、って。夕樹が来年就職先の配置が遠かったら、また違うタッくん見つけるかもなぁって。
それは考えすぎとして、このサイトを見つけて、時系列表にすると二人の心の移り変わりがよくわかって凄いなぁと思いました。
女は指輪も返して、過去の男はバッサリ切るのに対し、男は記念にとか、勘違いの電話にもまだ俺を思ってるのかと思い出に酔うところが、男女の象徴的なところだなぁと思います。
それから、タッくんではなくタッチャンの方が自然なのでは?ということに関しては、タッチの達也からするとそう思いますが、シブがき隊の解散が1988年なので、その頃アツトをアッくん、イツキをいっくんとか君で呼ぶの割とありました。
あと私も1964年生まれなので、同級生には辰のつく名前の男子が二人いました。
ネタバレ早く、つまらないと思った私に、ゴンザさんのブログが楽しみを与えてくださいました。
手を繋いでる表紙ではなく、タロットの表紙の本を図書館で探しましたよ〜
ありがとうございます。
Posted by ふたかじ at 2016年07月04日 10:48
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Tracked: 2005-07-06 22:12