2005年09月09日

【文芸】ゴザンス800字『映画の娘』

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第11回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は800字小説。編集部から提示された3つのお題を全て使って、一編のショートショートを書き上げるものです。この時の3つのお題は「水曜の朝/映画館で/お父さんが」というものでした。ごちゃごちゃした解説は後に回し、さっそく本編行きましょう。

【800字】映画の娘 (2003-11-03 17:14:28)
text: ゴンザ

<お題:水曜の朝/映画館で/お父さんが>

客席に足を踏み入れて、喜乃は効きすぎの冷房に身震いした。羽織るものを持ってくるんだった、と後悔しながら、座席に身を沈める。同じ列に他の観客はいない。水曜朝の映画館、空いているのは当たり前だ。

手元のチラシに目を落とす。「平日午前の特別企画・珠玉の小品をあなたに」。
1ヶ月の間、曜日ごとに決められた短編が上映される。喜乃の目は、水曜の作品の主演女優名に引き寄せられた。

山本静乃。喜乃の母。

母が若い頃女優だったことは聞いていた。だが、子供だった喜乃がそのことを尋ねても、静乃は話してくれなかった。父のことを含めて、母は自分の過去を全く娘に語ってくれなかった。

逆らいがたい空気をふわりと発しながら、
「どうでもいいじゃない、そんなこと。」とおっとり微笑む母の姿。
それはまるで白い炎のようだった。

母の過去は、母が亡くなってから喜乃のもとに集まるようになった。10代から舞台で活躍していたこと。実家とは断絶状態だったこと。今の喜乃と同じ歳に1本の映画に出演し、それを最後に引退したこと。そして喜乃が生まれたこと。

「相手はその映画の関係者に違いねえ、って親父が怒鳴ってたよ。」葬儀で初めて会った叔父は、へらへら酒を飲みながらそう言っていた。

そして今、その映画が喜乃の前で動き出そうとしている。父が映っているかもしれない映画。父が撮ったのかもしれない映画。自分はここに父を求めているのだろうか。

喜乃自身にもよくわからなかった。

銀幕が光る。まぶしさに目を細めた喜乃の前で、女が振り返った。彼女はおっとりと笑った。
あの白い炎を身にまとって。

お母さん……。

母は、美しかった。母がまとう炎の美しさを、この映画は十分にとらえていた。フィルムが母を愛していた。

……ああ、そうか。
そうだね。この映画が私のお父さんなんだね。私はお母さんとこの映画の間に生まれた娘、喜乃なんだね。

銀幕の母は笑った。

「どうでもいいじゃない、そんなこと。」

【終わり】

<自分で解説>
えーと。ゴンザにしてはめずらしく、変なトリックや技巧は使わずに、お題に正面から取り組んだお話です。どうも書いてて照れるんで、あまりこういう雰囲気の作品は作らないんですが。

けっこう編集部の評価は高かったらしく、質の高い作品が多かったこの時の募集で、第一席ともいうべき「公式メルマガへの全文掲載」に採用してもらえました。

ただ、書いた時点でこの話を自分が気に入っていたか、というとそうでもなく、よくわかんないなあ、と思ってました。けっこういいんじゃないか、と思えるようになったのは、メルマガに載った後、自分で何度も読み返してみてからです。

全体的な雰囲気はこれを書くちょっと前に読んだ『光の帝国』(恩田陸)の影響を受けているような気がします。「映画館で・お父さんが」というお題を見て「お父さんが映画を見る」ではなく、「お父さんが映画製作関係者だった」という設定にしたのは、この本の「おおきな引き出し」からの発想だったのでしょう。

お題の「お父さん」を直接登場させないで影の存在にするというあたりが、やっぱり変なひねり方をする私らしい設定ですね。むしろ話としては「お母さんが」になってます。

なんとなくこのお話はちょっと時代がかった感じにしてます。フィルムもカラーより白黒のイメージ。原節子さんが出てくるような。登場人物の名前もあえて古風なものをつけています。静乃と喜乃。

そして一つ隠れ要素が。喜乃は「よしの」と読んでもらってよいのですが、その裏にあるのは「キノ」という読み方。ドイツ語の「Kino」。英語で言うと「Cinema」。つまり「映画」です。

娘に「映画」という意味の名前をつけた母の心は?

まー「そんなのわかるか!」という暗示なのですが、こういう言葉のイメージを重ね合わせていく遊びが好きなんですね、私は。

ストーリー的なことで言えば、800字だけで「母の一生」を多少なりとも描き出すために苦労した覚えがあります。凛とした印象を作り出すための「白い炎」。実家との関係を端的に表すための「葬儀での叔父さんの言葉」。母の人生観を垣間見せるための「どうでもいいじゃない、そんなこと。」

短い言葉だけで、いくつかの複数のイメージをわきあがらせるように工夫することの難しさを感じたお話でした。そして、こういう文学っぽいのも、自分に書けないわけではないんだな、と自分自身を少し意外に思ったお話でした。

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posted by ゴンザ at 20:48 | 静岡 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月25日

【文芸】ゴザンスことばあそび「プールサイドにて」

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第10回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は「ことばあそび」。編集部から提示される一連の言葉を使って自由に遊ぶ、という競作投稿です。この時のお題は「なつやすみはもうおわり」。遊び方はとくに規定されていませんが、一文字ずつを文頭に使うのがオーソドックス・スタイルです。

【ことばあそび】プールサイドにて (2003-08-18 16:00:58)
text: ゴンザ

【な】長かった合宿の最後の練習を終えて、僕らはプールサイドでなんとなくぼんやりしていた。

【つ】つらかった、という印象しか残らなかったが、終わってしまうと、祭りの後のような奇妙な虚脱感と、感じたくもない名残惜しさに体全体が包まれているような気がする。

【や】山の方から吹いてくる風は、混ぜていないコーヒークリームのように、ところどころに秋を混じらせて、水着にTシャツをはおっただけの身体をなでていく。

【す】『済んでしまえばいい思い出になる!』などというコーチの言葉には、(何言ってやがる、このサディストが!)と反発したものだが、やはり何年か経って思い出すのは、今のこの夕暮れの風景なのかもしれない。

【み】みんな、一言もしゃべらない。

【は】話さなくても通じる、同じ空気の中にまどろんでいる、そんな感じがした。

【も】もうそろそろ、行かなくちゃな、と部長の長谷川がぽつりと言った。

【う】うん、そうだなと答えはしたが、僕も他のやつらもほとんど動かなかった。

【お】落ちていく夕日を眺めながら、そうだな、行かなくちゃいけないんだな、と頭の片隅でつぶやき、僕は言いようのない寂しい気分に襲われた。

【わ】わけのわからないノスタルジィを持て余して、まわりを盗み見ると、「どうすべえ?」というようにごろりごろりと横たわる仲間たちの姿が、夕焼けに照らし出されていた。

【り】……陸に追いやられた魚、進化に追い立てられた魚類ってのも、始めはこんな風に呆然としていたのかもなと考えて、笑いがこみ上げてきた僕を、長谷川が気味悪げに眺めて、ぽかりとこづいた。

<自分で解説>
投稿を始めて3回目くらいの、ほんとに初期の作品です。そして初めて公式のメールマガジンに全文が紹介された、思い出深い作品です。「なつやすみはもうおわり」というフレーズから感じられるさびしさを表現するために、いくつかのイメージを重ね合わせてみました。

ひとつは普通に「夏が終わって秋が来る」ということへの名残惜しさ。「祭りの後のような奇妙な虚脱感と、感じたくもない名残惜しさ」だとか「山の方から吹いてくる風は、混ぜていないコーヒークリームのように、ところどころに秋を混じらせて」といったあたりですね。

次に一日の終わりの夕暮れ時のせつなさ。「今のこの夕暮れの風景なのかもしれない」「落ちていく夕日を眺めながら」の部分ですね。

そして高校生くらいの頃に感じる、大人になっていかなければならないこと、子供時代の終わりへの戸惑い。「やはり何年か経って思い出すのは」「そうだな、行かなくちゃいけないんだな」の周辺です。

こういうノスタルジックな情景のまま終わらせると、なんだか私自身照れてしまうので、最後に「実はそんなにたいしたことじゃないんだよ」と視点を引いてみました。生物の進化、なんてでっかい視点から見ちゃうあたりが、高校生らしくていいんじゃないかと。

「ちょっと恥ずかしい感じ」というのが、基本コンセプトの作品でした。

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posted by ゴンザ at 17:30 | 静岡 ☔ | Comment(3) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年04月28日

【文芸】ゴザンスことばあそび「阪神優勝予言の書」

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第9回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は「ことばあそび」。編集部から提示される一連の言葉を使って自由に遊ぶ、という競作投稿です。基本の遊び方は、一文字ずつを文頭に使うやり方。こんな感じの文章をつくるのが一般的な「あそび方」です。

さて、時は2003年の10月。阪神がリーグ優勝した年です。このとき編集部から出されたお題は「とかくこのよはせちからい」でした。この「ことば」を使ったゴンザの「あそび」は以下のようになりました。

【ことばあそび】阪神優勝予言の書 (2003-10-12 00:31:26)
text: ゴンザ

<お題:とかくこのよはせちからい>

[漢字版]

虎勝ち 制覇 かの予告

いらちの癖は よく隠せ
急くのはよせよ 暗い夜は
ここは のこのこ よちよちと
行くよ 幾夜の悔いの後

覚醒せよと 威勢良く
一から破壊 個々の枷
ここから改革 暗い過去

よい言の葉と よい計らい
言の葉の背 意欲乗せ
意欲の力は 誓いの力
誓いの力は 世界の力
暗い世界は このくらい

ハラハラ急くは 原の腹
この血 この土地 この命
かく獲得は 勝ちの価値

世界は予告 虎の勝ち


[ひらがな版]

とらかち せいは かのよこく

いらちのくせは よくかくせ
せくのはよせよ くらいよは
ここは のこのこ よちよちと
いくよ いくよのくいののち

かくせいせよと いせいよく
いちからはかい ここのかせ
ここからかいかく くらいかこ

よいことのはと よいはからい
ことのはのせ いよくのせ
いよくのちからは ちかいのちから
ちかいのちからは せかいのちから
くらいせかいは このくらい

はらはらせくは はらのはら
このち このとち このいのち
かくかくとくは かちのかち

せかいはよこく とらのかち


<自分で解説>
えーと。ものすごい変化球の「ことばあそび」です。ひらがな版を見れば、だいたい意味がわかると思うんですが、「とかくこのよはせちからい」の11文字のみを使って全文を構成しているんです。いわば「いろはうた」的なことばあそびですね。

始めと結びの「とらかち せいは かのよこく」「せかいはよこく とらのかち」は「とかくこのよはせちからい」の11文字を1文字ずつしか使っていない、完全なアナグラムになっています。

「いらち」は関西弁でせっかちのこと。よせばいいのに、文のリズムや押韻にまで手を出しました。例えば「行くよ幾夜の」とか「ハラハラ急くは 原の腹」とか「かく獲得は 勝ちの価値」とか。このおかげで、けっこう大変な作業になった覚えがあります。

でも、11文字だけでも意外とたくさんの言葉が作れるんだなぁ、と新たな発見をした「ことばあそび」でしたし、やっていてなかなか楽しい「あそび」でした。

さて、阪神といえば大阪。ゴンザはこのゴールデンウィークに大阪〜京都に遊びに行ってきます。いとこが大阪に家を建てたので、その新築祝いという名目で。新世界のあたりと大阪城、箕面の山と最後に京都嵐山・嵯峨野を回ってこようかと思ってます。

それでは行ってきまーす。

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posted by ゴンザ at 17:28 | 静岡 ☀ | Comment(2) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月29日

【文芸】ゴザンス複合「おまわりさんの悩み」

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第8回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

さて、他の記事でも書いている通り、文芸競作サイト「ゴザンス」には、大きな3つのジャンルがありました。
1)テーマ投稿 「卒業・別れの季節」というような一定のテーマに沿った文章を書く。
⇒例「Yちゃんお土産戦記
2)800字小説 「引越しの日/公園で/小学生が」といった形で提示される3つのキーワードを全て織り込んで、800字以内のショートショートを作る。
⇒例「人待ちの情景
3)ことばあそび 「しづこころなくはなのちるらむ」のような一連の言葉が提供され、その言葉を文頭に一文字ずつ使うなどした「あそびの文章」を構築する。
⇒例「よるのふね

さてさて、以上を踏まえた上で、今回の作品「おまわりさんの悩み」をご覧下さい。



【テーマ】【800字】【ことばあそび】おまわりさんの悩み(2004-09-12 21:36:32) 
text: ゴンザ

<テーマ:キミが嘘をつくなんて>
<800字お題:花見の日に/駅前通りで/おまわりさんが>
<ことばあそび:さくらがさいたらあそびにおいで>


(さすがに、この時期に駅前通りを突っ切ろうってのは無謀だったか……。)

車の外はまるで歩行者天国であるかのように、たくさんの花見客がぞろぞろ歩いていて、僕の愛車は当分ここから抜け出せそうにない。
ランチボックスを抱えた若い女の子が、彼氏と一緒にフロントガラスの前を横切るのを見て、僕はいずみのことを思い、すこしブルーになった。

学生時代の友人の結婚式で知り合った彼女とは、つきあい出してまだ数ヶ月だが、僕はいずみに秘密にしていることがあった。
(「サラリーマンです」だなんて、どうしてあんなウソついちゃったんだろう。)
今考えるとなぜあんなことをしたのか分からないのだが、僕は「警察官」という自分の職業を打ち明けずに、彼女とつきあい始めてしまい、そのまま現在に至っているのだ。
ただ、それももう限界で、今日のように僕が週末非番でも、彼女の都合が悪くて会えないという日々が続いており、そろそろ正直に話さなきゃという思いが僕の胸に重くのしかかってる。

(来週もう一度デートに誘って、その時「実は俺、おまわりさんやっててさあ!」と軽く言ってみようか……?
案外「え、そうなんだ」って受け入れてもらえるかもしれないし……。)

そんな虫の良すぎる考えに沈んでいると、突然窓ガラスがコツコツと叩かれ、「すいません!この先を左折して、ここから抜けてしまってもらえますか?」と声をかけられた。
びっくりして目を向けると、窓の外に見慣れた婦警の制服が立っているのが見えた。
(日曜だってのに、花見客の交通整理に駆り出された不運な子か……かわいそうに。)
お疲れさま、とでも言ってあげようと、窓から顔を出した僕は、次の瞬間愕然と目を見開いているその婦警と見つめ合っていた。

「いずみ……お前……OLだって言ってなかったっけ……?」

出会った時に感じた親近感はこのせいだったのか、とどこかで妙に納得している僕の鼻の頭に、桜の花びらが一枚貼りついた。


<自分で解説>
えーと。意味がわかっていただけましたでしょうか。これは本来別々で与えられたお題である
1)テーマ「キミが嘘をつくなんて」
2)800字「花見の日に/駅前通りで/おまわりさんが」
3)ことばあそび「さくらがさいたらあそびにおいで」
をひとつの文章ですべて満たしてしまおう、という試みです。

1と2の条件がクリアされているのは、あきらかですね。花見の日駅前通りでおまわりさんが彼女についてしまった嘘に悩んでいたら、なんと彼女も嘘をついていた、ということで「キミが嘘をつくなんて」。

3については、各文の文頭の音を拾ってみてください。1文目の「すがに」2文目の「るまの」3文目の「ンチボックスを」……と続けていくと、最後に「さくらがさいたらあそびにおいで」が出来上がるわけです。

このショートショートは物語としての展開がどうというより、ほとんど文章を使った曲芸。そういう意味ではまさしく「文芸」(うまくないうまくない)。自縄自縛の状態から大脱出をはかるタイプの手品だと思っていただければ幸いです。

全部の要素をバランスよく配置して破綻させず、なおかつひとつのお話として完成させるという作業がなかなか大変でした。テーマと800字のキーワードから「おまわりさんが嘘をつくことにしよう」という発想と、「嘘をついた相手も同じ嘘をついていたことにしよう」というオチはすぐに思いついたのですが、文頭に使える文字が限られるのやっかいでした。特に2回もでてくる「ら」と、後半の「び」が言うことを聞いてくれません。「び」で始まる言葉なんて、あんまりなくて……。春だから「鼻炎」にしようかとか色々悩みました。

お話をつむぐというよりは、クロスワードパズルを作るような感覚で書いた覚えがあります。苦労した甲斐があって、けっこう綺麗にまとまり、自分では気に入っている作品です。

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posted by ゴンザ at 14:36 | 静岡 ☁ | Comment(2) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月24日

【文芸】ゴザンステーマ「Yちゃんお土産戦記」

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第7回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は「テーマ投稿」。これは読んで字のごとく、あらかじめ決められたテーマに沿った文章を投稿するものです。この時のテーマは「お土産」でした。

【テーマ】Yちゃんお土産戦記 (2003-08-20 15:53:52)
text: ゴンザ

Yちゃんという同僚がいる。

今年24歳のなかなかかわいい子だ。どこからお金をひねり出しているのか分からないが、海外旅行が趣味で、行く度に私にお土産を買ってきてくれる。私としては「おいおい、これは脈ありか?」とぜひとも勘違いしたいところだ。

しかしそのお土産のラインナップを見ると、どうにもその勘違いは、やはり勘違いらしい、と勘違いの得意な私でも思わざるを得ない。

韓国土産としてもらったのは、スティックタイプのインスタントミルクティー3本だった。飲むと軽い頭痛に襲われるくらいの甘さを誇るシロモノだった。飛行機の中でもらったものか何かに違いない。

「カリフォルニアに行って来ました!」ともらったのは、ジェリービーンズ3袋(うち1袋開封済み)だった。ものすごく体の中にいれたくない色をした食べ物だった。もしアクセサリーだとしても「その色は趣味がよくないぞ」とツッコみたくなるほどの、鮮やかな青と見事なショッキングピンクのツートンカラー。

こんなものを「作ろう!」と言い出し、「よし!」と許可を出し、「売ります!」と店頭に並べ、「買った!」と市場の循環を成立させてしまうアメリカ人というのは、やはり侮れない。

ハワイから帰ってきたときは、珍妙なキーホルダーをもらった。ゴムのような素材で出来た人形。フラダンスを踊るハワイ娘の姿をしていて、なぜか胸のところが大きな2つの穴になっている。ひねくりまわしていると、人形の中が空洞で、中になにやら半透明のゼリー状樹脂が入っていることに気づいた。

ぐにっ。ぐにっ。……そうか。

どうやらこれは人形を「ぐにっ」とつぶすと胸の穴からその樹脂が「ばいん!」と飛び出し、「ほーら、グラマーなハワイ娘!あろっはー!」として楽しむものらしい。とてもわかりにくい。マニュアルが必要だ。

「どこかにつけてくださいね!」
 このキーホルダーを……? どこに……? 
 ……しかたがない、数日くらいはカバンにでも……。
「課長とおそろいなんですよ!」
 いやがらせなら、いやがらせだとはっきり言ってくれ。

「コーヒー好きでしたよね! 飲んでください!」と渡されたのは、マレーシアかインドネシアか、その辺のお土産だったと思う。

持って帰った。飲んだ。思った。

(これは「食べられる土」とか「身体に害のない染料」とか、とにかくそういうものに違いない。)

いやな予感はしたのだ。レギュラーコーヒーだと思って開けた袋には、片栗粉なみに粉砕された茶色い粉末が入っていた。完膚なきまでに細かくされたコーヒー豆なのか、こういうインスタントコーヒーなのかはわからない。裏面の絵を見た限りでは、スプーンですくってお湯を注げ、ということらしいので、インスタント気味のコーヒーなのだろう。

匂いをかいでみた。香りを確かめるというより、生存を望む動物的本能によるものだ。

……すごい。ほぼ無臭。香りもへったくれもない。仮にもコーヒーを名乗る以上、へったくれくらいはあっても良さそうなものである。

飲まずに済まそうか、と真剣に悩んだが、私はウソをつくのが苦手だ。このまま「おいしかったよ!」などと笑顔でYちゃんにお礼を言えるほどには大人ではない。勇気をふるいおこして、その茶色い粉末をお湯に溶かした。

あああ……にごってる……にごってる……あああ……沈殿してる……沈殿してる……。ヤツの破壊力を抑えるために、牛乳をたっぷりと入れ、「ファイトー!いっぱーつ!」という気概で口に運んだ。

……このざらりとした感触がなんとも……鼻腔に漂うほのかなかび臭さがまた……。

まずいコーヒーを表現するのに「泥水のような」というのがあるが、コーヒーと泥水の数直線上で、泥水に近いところに位置する液体であることは間違いなかった。

翌日、なにか言いたげなYちゃんの前で、私はコーヒー及び海外旅行の話を避けつづけた。

考えていたのは、笑顔でやさしいウソをつけるくらいの大人に、早くなりたいものだということ。そして、被害が少なそうな国内旅行に、Yちゃんが興味を移してくれないものか、ということだった。

<自分で解説>
意外とこのテーマ投稿、ゴンザは得意ではありませんでした。というより「燃えなかった」と言ったほうが正しいかも。「800字小説」や「ことばあそび」に比べてはるかに自由度が高かったので、いまいちチャレンジ精神を刺激されなかった、というのが実感です。

このお話自体は、誇張はあるもののほぼ実話。あのコーヒーは、本当に厳しい味だった……。あれ今はどうしてるんだっけかな……。

……! 棚のどこかに今も残っているような気が! はよすてにゃあ!

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posted by ゴンザ at 13:53 | 静岡 ☀ | Comment(2) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月18日

【文芸】ゴザンスことばあそび「よるのふね」

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第6回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は「ことばあそび」。このジャンルの公開は初めて、かな?

ゴザンスという文芸投稿サイトは、なにを投稿してもいいところだったのですが、月に2回のペースで「お題」も出されていました。お題の出されるメインジャンルは3つ。

まずここでもいくつか紹介している「800字小説」。これは提示された3つのキーワードを使って800字以内の短い小説を作る、「ショートショート三題噺」。

2つめが「テーマ投稿」。たとえば「卒業シーズン・あなたの経験した別れ」「最近一番驚いたこと」というような、最近ではブログのトラックバックテーマでよくあるパターンです。

そして3つめが今回紹介する「ことばあそび」。ゴザンス編集部がある一連の言葉を提示します。たとえば、花粉症の今の時期なら「くしゃみはなみずはなづまり」。この「ことば」を使って投稿者は「あそんで」みせるのです。

「あそび」の方法は特に指定されているわけではありませんが、基本は文頭に使います。つまり大喜利でよく見る「あいうえお作文」のように、「くしやみはなみずはなづまり」がそれぞれの文頭におかれた散文や詩をつくることになります。

まあ、ごちゃごちゃ理屈で説明してもわかりにくいですね。実物を見ていただきましょう。この時のお題の「ことば」は「いぬとねことたぬき」でした。


【ことばあそび】よるのふね (2003-09-28 00:05:35)
text: ゴンザ

<お題:いぬとねことたぬき>

いとうつくしき
ぬばたまの よるにひそみぬ
とわのやみ そとでないてた
ねこどもが ふときがつくと
こえひそめ すがたかくしたよるのそこ
とこしえのねむり はこぶふね
ただゆっくりと たんたんと
ぬれたへさきは あやまたぬ
きみをむかえにきたのです さあめをとじてのりなさい

<自分で解説>
文の頭をタテに読むと「いぬとねことたぬき」になっていることが、お分かりいただけますね。

ゴンザはパズルのようなことが好きなので、この「ことばあそび」は比較的得意でした。ただ、こういう「詩」の形式は、照れがあってあまり使わなかったので、ゴンザの「ことばあそび」としては、わりと珍しい作品です。

「真っ暗な夜に不思議な船がするすると町の中を進んでくる」という情景を、七五調のリズムでまとめています。無理したわりには、おもしろい雰囲気の詩に仕上がっていて、自分ではけっこう気に入っています。

さて、この「ことばあそび」は「制限のある中でいかにして文を成立させるか?」というのが勝負になる「ことばのパズル」なのですが、ゴンザは途中から「ゴザンス編集部から提示された以上の制限を自分に課す」という自縄自縛な遊び方をしていました。(マゾか?)

もう一度上の作品を読んでみて下さい。今度は文頭ではなく、文末に注意して。

気がついていただけましたか? それぞれの行の一番最後の文字を、下から順に読むとこれも「いぬとねことたぬき」になるように作られているんです。つまりは「いぬとねことたぬき」でぐるりと一周しているんですね。

もうひとつやっているのが、お題の「いぬ」と「ねこ」と「たぬき」を、詩の中に埋め込むこと。「ねこ」は普通に登場していますね。「猫が姿を隠す」ということで「いぬ」のイメージと「居ぬ」というダジャレ。

そして「たぬき」は……「たんたんと」。♪たんたんたぬきの○ンタ○は〜♪

おあとがよろしいようで。

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posted by ゴンザ at 10:32 | 静岡 ☀ | Comment(2) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年02月23日

【文芸】ゴザンス800字『人待ちの情景』

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第5回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回も「800字小説」。示された3つのキーワードにしたがって、800字以内で一つのお話を作る「ショートショート三題噺」です。
この時のお題は「あした/喫茶店で/去年知り合った人が」というものでした。

【800字】人待ちの情景 (2003-08-16 16:00:51)
text: ゴンザ

(おいしい。)
久美子はコーヒーカップを感心の面持ちで眺めた。
ホントにあの人が淹れたのかしら?と失礼なことを考えながら、ヒゲもじゃのマスターを盗み見た久美子は、そのまま時計に目を移した。
恵が遅れるのは珍しかった。

恵は会社の後輩である。いや、後輩だった。
去年の秋、久美子のいる部署に転属してきた後、半年で退職していた。
「やりたいことが、あるんです。」
笑って去っていった後輩を応援してはいたが、久美子はやはり寂しかった。
だから電話がかかってきた時、自分でも不思議なくらいうれしかった。
「明日会いませんか? いい喫茶店ができたんですよ。」

確かにいい店だった。閑静な街の一角。木をふんだんに使った店内。何よりコーヒーがおいしい。

(あのコーヒー好きご推薦の店だものね。)久美子はくすりと笑った。

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posted by ゴンザ at 18:34 | 静岡 ☀ | Comment(17) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月22日

【文芸】ゴザンス800字『サンタの慰労会』

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第4回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は800字小説。
いつもは三題噺のように3つのキーワードを織り込んで、800字以内のお話を作るのですが、この回は「世界でいちばんすてきなクリスマスパーティ」というお題でした。

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【800字】サンタの慰労会 (2003-12-23 19:29:39)
text: ゴンザ

<お題:世界でいちばんすてきなクリスマスパーティ>

 「大成功でしたね!」
 サンタの一人に声をかけられ、北村はありがとう、と笑った。答えた北村も、サンタの衣装をまとっている。

 「輸入雑貨フロア、売上4,558万円です!」
 会場から歓声が上がった。北村の勤めるデパートのクリスマスセールが終わったのが昨日の25日。今日は各フロアの担当者が集まっての打ち上げパーティだ。全員がサンタの衣装を着ている。一仕事終えたサンタ達の慰労会ってわけですよ、とそのアイデアを出した若手社員が今、北村の隣ではしゃいでいる。

 「予算比で140%ですよ!」
 北村は頷いた。セール責任者だから、よく知っている。
 期間中は売り場にも出られず、本部につめっきりで、インカムによる指示と数字の集計に明け暮れた北村だった。

 「全体で去年の売上のほぼ1.5倍です!」サンタ達は盛大に拍手した。

 ……よかった。みんな嬉しそうだ。この成功で、今後さらに厳しい予算となるだろうが、今は喜ぼう。みんなよくがんばってくれた。
 だが……成功したという実感が自分にあまりないのはなぜだろう?

 入り口で声が上がった。目を向けると、新たなサンタが入ってくるところだった。たぶん支部長だろう。この時間に現れることになっていたはずだ。
 サンタはにっこり笑うと「みなさん、ご苦労様!」と持っていた袋を広げた。すると、たくさんのシャボン玉がふわふわと溢れ出し、会場に広がっていった。
 美しい光景に、わあ…と息を呑むサンタ達の前で、シャボン玉がはじける。子供の声が淡く響いた。

 「わあ、おかあさん、きれいだね」

 またはじける。

 「あはは、なにパパその格好」「あなたが花を買ってくるなんて」「今年はツリーを飾ろうか」「おいしい、この料理」……

 ひとつはじける度に、ひとつ響く声。サンタ達は夢見るように声に耳を傾けていた。

 ……そうか。これか。俺はこれが欲しかったんだな。

 不覚にもにじんでいく視界の隅で、会場に入ってきた本物の支部長がきょろきょろしていた。


【終わり】

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<自分で解説>
えーと。わりとテーマに沿った、直球勝負の作り方をしてますね。ひねくれたゴンザとしてはかなり珍しいので、自分で読んでちょっと照れます。

発想としては、
・単なるクリスマスパーティではなく、クリスマス明けの「サンタの打ち上げパーティ」にしてみよう。
・一息ついているサンタに、逆にごほうびが……という展開が面白そうだ。
・なら、街にあふれる「職業サンタ」に本当のサンタからご苦労様のプレゼント、というのはどうだ?
という流れだった気がします。

主人公の北村さんは、売り場からの叩き上げ。実力が認められて、今年から営業企画部門の重要な職に大抜擢された人、というような設定です。

ゴンザ自身、営業企画系の間接部門の人間なので、「やっていることがお客さんに喜ばれているのかどうなのか?」ということを肌で感じることがなく、ふと物足りなさを感じることがあります。もちろん、イヤなお客さんやクレームにも対応しなくてはいけないので、直接部門というのはストレスも多いのでしょうが、うれしいこともあるはず。ふり幅の大きい部署ですよね。

そういった「現場」からふり幅の小さい「間接部門」に移ると、仕事をしている「実感」が薄れるんじゃないのかなあ……という想像から生まれたお話です。

お話作りに影響しているのは、たぶん漫画「いいひと。」。文庫版でいうと4〜6巻あたりとなる「MAXPORT」編の印象が、強く頭にあったように思います。現実的な部分もありながら、ファンタジックな「大人のおとぎばなし」としてまとめる、という筋立てもかなり影響をうけているようです。



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posted by ゴンザ at 13:38 | 静岡 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月08日

【文芸】ゴザンス800字『新・かさこじぞう』

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第3回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

今回は800字小説。出された3つのお題を織り込んで、800字以内でお話を作るものです。編集部が提示したお題は[クリスマスに/教会で/C.サンダースが]でした。

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【800字】新・かさこじぞう (2003-12-15 14:08:33)
text: ゴンザ

<お題:クリスマスに/教会で/C.サンダースが>

 女ってのは、どうしてああ鋭いんだろう?

 僕はマフラーを見下ろしてため息をついた。確かに前の彼女にもらったマフラーをして、デートに出かけてしまった僕がバカだった。それは認める。でも、どうしてちらっと見ただけで、そこまで見抜くことができるんだろう?

 わからない。わかっているのは、イブに独りで家路についている僕の悲しい現状だけだ。

 かすかに聖歌が聞こえた。ここは教会の裏手だったっけ。何げなくそちらに目を向けると、見知った笑顔に出会った。サンタの衣装を着たケンタッキーおじさんが、教会の裏口にぽつんとたたずんでいた。

 僕とカーネルはしばし見つめあった。本当ならここにいないはずの2人だ。クリスマスには奇跡が起きる。

 酔っ払った学生あたりが拉致してきたのだな、と頭を振る。暗がりの彼は寒そうに見えた。僕はひとつため息をつき、失敗の元凶であるマフラーを彼の首にくるりと巻くと、首をすくめてアパートまでの道を走った。

 その夜、夢を見た。
 
 空には月。雪明りにぼんやり照らされた道をえっちらおっちらやってくるひとつの影。あれはカーネル・サンダースだ。僕が巻いたマフラーをしている。ケンタッキーおじさんは僕の部屋の前に止まり、どさりと何かを降ろしていった。そしてえっちらおっちら帰っていく。

 ドアチャイムの音で目が覚めた。不思議にすっきりした頭でドアを開けると、外には誰もいなかった。雪が積もっていた。ふと目を落とすとドアの脇に何か置いてあった。……パーティ・バーレル? まさか!
 もう一つ紙袋がある。開けてみるとマフラーが入っていた。カーネルにあげた物ではない、新しいマフラー。

 ふいにおかしくなった。くつくつと笑いがこみ上げてくる。こらえきれなくなって、僕は大声で笑った。廊下の角に隠れていたらしい彼女が、目を丸くしてこちらを見ていた。それを見て、もっとおかしくなって僕は笑った。

 サンキュー、カーネル。うまく仲直りできそうだ。

【終わり】
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<自分で解説>

この作品はゴザンスが発行する公式のメールマガジンに全文を掲載してもらえました。単純に1等賞!というわけではないにせよ、少なくとも寄せられた作品の中で評価が高かった、ということで、正直うれしかったです。

「教会で」というのをきちんと守ると発想が狭まってしまいそうだし、第一、入ったこともない教会なんか描きようもなかったので、さくっと教会の外で済ませてしまいました。

発想の元になっているのは、普通に「まんが日本むかしばなし」のかさこじぞう。雪の中をえっちらおっちらやってくるおじぞうさん、という光景が頭にこびりついています。そのイメージに、よく噂に聞く「カーネル誘拐」を組み合わせて作り上げた「現代版のかさこじぞう」なわけです。
昔、阪神が優勝したときにカーネル人形が担ぎ出され、道頓堀に投げ落とされたことがありましたよね。聞いた話では、それ以後カーネル拉致というイタズラが増え、そのせいで今のカーネルには鎖&固定具などの盗難防止対策がとられているとかいないとか。持ち上げてみようとした友人によれば、けっこう重くて、誘拐するにはかなり綿密な計画を立てる必要があるそうです。(立てるな立てるな)

もひとつ、大きく影響しているのが、加納朋子さんの小説『掌の中の小鳥』。

これ、ゴンザがとても好きな作品です。基本的には推理小説なのですが、殺人などは起きない、日常の不思議な出来事をあつかった叙述型ミステリ。加納朋子さんは、よく北村薫氏と同系統の作家として紹介されますね。
言葉のパズル的な謎の作りこみには、なるほど!と感心しますし、ミステリ抜きの短編小説、ライトタッチの恋愛小説としても秀逸です。

そしてこの作品で、格別の光を放っているのがヒロインのキャラクター。自由奔放でややわがままながらも、生き生きとしていてとても魅力的です。加納朋子さんが「自分が男だったらぜったい惚れてしまう女の子を描いた」というだけのことはあります。女性が描く女性はやはり面白いですね。

で、この本に、主人公が他の女の子にもらったネクタイをしめてきたことに怒り、彼女がデートから帰ってしまうというお話があります。そして主人公は「なぜバレたんだろう?」と途方にくれる。……こりゃ設定としてはほとんどパクってしまってますね。

まー、なんにせよ、この『掌の中の小鳥』、とっても面白いのでぜひ読んでみてください。

ところで、この「新・かさこじぞう」の最後に出てくる新しいマフラーの意味は、書いたゴンザ自身もはっきり定めてません。

「彼女」はプレゼントとしてマフラーをあらかじめ用意していたのかもしれません。ひょっとしたら手編みかも。で、いざ「彼」と会ったら、どう見ても「彼」が自分で買ったとは思えないようなマフラーをしている。いかにも女性が選んでくれたような。それでカチンときた。

あるいは、会ったときは他のプレゼントを用意してきたけれど、そんなマフラーをしていたものだから、ケンカ別れの後、少し気持ちを落ち着けてから、あえて新しいマフラーを買ってきた。「そんなの巻かないで、あたしのあげたのをしなさいよ!」と。

ぼんやりしてそうな「彼」が過ごした夜と、気の強そうな「彼女」が過ごした夜。「彼女」はどんなことを考えながら、パーティバーレルとマフラーを抱えて、朝早くに彼の家までやってきたのか。
そしてピンポンダッシュ後、廊下の角に隠れていたときの気持ち。笑い声が聞こえてきたときの驚き。

そのあたりに想像をめぐらせてみるのも一興かと。

……自分の書いた作品に対し、私もよく言うもんだ……。

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posted by ゴンザ at 17:36 | 静岡 ☁ | Comment(2) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年11月09日

【文芸】ゴザンステーマ『毛のはなし』

ゴンザのゴザンス投稿作品を振り返るシリーズの第2回目です。ゴンザとゴザンスの関係について知らない方はこちらをご覧くださいませ。

さて、今回はゴンザの記念すべき初投稿作品「毛のはなし」。募集されたテーマはたしか「12歳の夏」でした。

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【テーマ】毛のはなし (2003-08-08 11:50:58)
text: ゴンザ

僕は比較的、幼い12歳だった。
しかし、その夏の日、僕はオトナへなることを意識する。

月曜日は、朝礼の日だ。

暑いさなか、校庭に1年生から6年生までずらりとならび、ラジオ体操をして、校長先生の話を聞いて、校庭を行進してから校舎に入る。
上ばきに履きかえて、僕は1階の階段下にあるトイレに寄った。ここでおしっこを済ますのがいつもの習慣だ。

用を足して、しまおうとしたとき、指先に何かが触れた。
なんだろう?と見下ろして、僕は固まった。

……毛?

たしかに見える。毛だ。

右側に3本。左にはない。
短いのが2本で、長いのが1本。

しばしの間、状況がよく分からなかった。
もし傍から見ている人がいたら、さぞ挙動不審に見えただろう。
とっくに用は済んでいるはずなのに、便器の前で立ち尽くす少年。
股間を覗きこんで、動きを止める少年。
無言でしげしげと自分の相棒を観察する少年。

……これは……ひょっとしてここから生えている?

必要以上の時間をかけて、その仮説に達した僕を、責めないで欲しい。まだ幼かったのだ。

気を取り直した僕は、次に仮説の証明に取りかかった。
髪の毛が、ひょんな具合でパンツの中に紛れ込んでいる可能性もある。これは糸くずかなにかで、毛ですらないかもしれない。自前の毛であるということを、結論づけるにはまだ早い。

実に科学的だ。さすが学研の「かがく」の愛読者である。

長いのを引っ張ってみる。
にゅっと根元が引っ張られて、テントのような形になった。

痛い。いや、思ったよりは痛くない。
意外とこのあたりの皮は、感覚が鈍いのかもしれない。
……そんなことはどうでもいい。

このちぢれた物体が、自分自身から生えているという事実は、
科学的に動かしがたかった。

なんともいえない気分になった。
わけもわからず、どきどきした。
いやなような、恥ずかしいような、それでいて少しうれしいような。

今考えてみると、自分の体がオトナになっていく、
ということに対しての、うれしさと反感だったのかもしれない。

のどのあたりがきゅっとなるような、
変な感じを味わいながら、教室に戻り席に着いた。
なんだか、ふわふわした頼りない感覚があった。

ぐるりと見渡して、思った。

僕は身体も大きくないし、大人っぽいわけでもない。
だから、こうして周りにいるクラスメートの大半は、
もうすでに、ああいう経験をしているのかもしれない。
そしてみな、なにも言わず、僕と同じように独りで驚いたのかもしれない。

急に周りが、違うように見えた。

その時はよく分からなかったが、
おそらく「自分」と「他の人」がいて、
「自分」だけでなく、「他の人」もいろいろな経験をし、
いろいろなことを感じ、いろいろなことを考えているんだ、
という至極当たり前のことを、すとんと実感したからだろう。

クラスメートの顔が、遠くに、近くに揺らぎ、
それでいて妙に鮮明に見える気がした。

……それにしても……
僕は思った。

長いほうの毛は、たっぷり5センチはあった。
こんなに立派に成長するまで気づかなかったのはどうしてなのか……?
僕はおしっこをする時も、お風呂で洗う時も、
よく見ないで作業をしていただろうか……?

先生が現れるまでのざわついた教室で、
少年はトイレでの自分の手順を、熱心に思い浮かべてみるのだった。

【終わり】
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<自分で解説>
初回からいきなりシモ系の話を投稿した自分の勇気に拍手です。いったいゴザンスにおいて、ゴンザはどんなキャラを確立しようと目論んでいたのでしょうか。今となっては藪の中です。

この話、ほぼノンフィクション。小学校6年生の時に体験したことを、当時の記憶をたどって書き上げたものです。妙に鮮烈に覚えている子供時代のエピソードって、みなさんいくつかあると思います。ゴンザにとってこれはその1つです。確認した場所、毛の本数と位置構成、とった行動など、ほぼ事実と一致している自信があります。だからどーした、とツッコまれる前に自分でツッコんどきましょう。

教室に戻ってから感じたことも、鮮明に覚えています。漠然としか認識していなかった「自分」と「他人」というものを、すとんと実感できた、腑に落ちた、という瞬間だったように思います。実際は今でも「自分と他人」について漠然としてるんですが、少なくともその時はぱあっと目の前が開けたような気がしました。私にとって、人生の中で数少ない哲学的な瞬間は、陰毛とともに訪れたわけです。

前半はしょうもない話から始めて、後半に少年時代の感覚をわりとうまく表現できたかな?と思っており、初投稿ではありますが、けっこう気に入ってる作品です。

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posted by ゴンザ at 11:47 | 静岡 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年10月27日

【文芸】ゴザンス800字『時間のしわ』

ゴザンス」というサイトがあった。いや、今もあるのだが、2004年12月にはりとろぐというブログのサイトに完全に生まれ変わり「ゴザンス」自体は無くなるらしい。

この「ゴザンス」は、文章を書くのが好きな人たちが集まり、ブログ的なシステムを使って、ネット上の同人誌を作っていく、というようなノリのサイトだった。
メインとなっていた企画は、「ライター」と呼ばれる参加者たちによる競作。ライターたちは編集部が出すお題に沿って文章を書き、それを編集部はサイトとメールマガジンで紹介する、というような形式であった。

で、私ゴンザも文章修行がてら、短期間ながらここに参加していた。

さて、「りとろぐ」への移行作業をしない限り、ゴザンスに書いた文章はこの12月でなくなってしまうらしい。もったいないので、いくつかの文章をこちらのブログに移行させつつ、自分で解説を加える、というちょっぴり恥ずかしい真似をしてみることにする。

ゴザンスのお題ジャンルの一つに「800字小説」というのがあった。
編集部が毎回出す3つのお題、例えば「ハロウィンの夜に/樫の木の下で/小さな男の子が」というような「いつ・どこ・だれ」を使って、800字以内のショートショートを作るもので、要は小説版「三題噺」である。

今回は何篇か投稿して、やっとコツをつかんできた頃に書いた作品「時間のしわ」を取り上げることにする。
この作品は、同じゴザンスライターだった小日向とわさんのブログ「いっぺん」で紹介していただけたので、「お。少しは面白いらしい」と調子に乗ってのことである。

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【800字】時間のしわ (2003-09-01 14:47:50)
text: ゴンザ

<お題:停電の夜/横断歩道で/スーツの男が>

午前2時の丸の内のビル街。僕は休日出勤を終え、とぼとぼと歩いていた。
お盆休みの真っ只中じゃあ、さすがに人っ子ひとりいない。いつものこの街に慣れた身には、この静けさは新鮮だ。

横断歩道に差し掛かった時、街灯がふっと消えた。信号まで消えている。どうやら停電らしい。
(さっきも静かと思ったけど、さらに静かになるもんなんだな。)
僕は交差点に立ったまま、ぼんやりと街を眺めていた。

ふと気づくと少し先の横断歩道に、スーツの男がいた。姿勢を低くして道路を見ている。測量をしているような動きだ。
「……あの……なにをしてるんですか?」僕は声をかけた。
男は振り返らずに答えた。
「時間のしわをとってるんです。」

は?なんだって?

男は両手を下げて何かををつかむ動作をしたと思うと、ぶわっと上げて素早く下げた。
シーツを広げるときのような動きだ。
呆気に取られる光景が生まれた。
オーロラのような光が男の手元から現れたのだ。光は本当のシーツのように波打ちながら道路に広がり、淡く消えた。

「ここ、いつもはとても時の流れが速いでしょう。」
男は振り返って笑った。
「そういう場所にいきなり人がいなくなって、時の流れが遅くなると、時間のしわができやすいんです。お盆用に準備はしといたんですけど。」
男は消えている信号を見た。
「停電でさらに時の流れが遅くなったみたいなんで、心配で来てみたら、やっぱりしわができてました。」
ぽかんとする僕に、男は声を潜めた。
「時間のしわって、危ないんですよ?けつまづく人もいるし、交通事故もおきるし、しわの間にくるまれて行方不明になる人もいる。」
「は……あ……」
「あなたも気をつけてくださいね。」

男はすたすたと路地へ入っていった。我に返った僕は男の後を追った。路地に入ったところでつまづいて転んだ。足元であのオーロラが光った気がした。

(ほら、気をつけて。)

路地には誰もいなかった。四つんばいの僕の背後で、街灯が瞬いた。

おわり
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<自分で解説>
「ショートショートの基本は、やっぱ不思議系SFっすよね、星新一先生!」という勢いで書き始めた記憶がある。普段は喧騒に満ちたオフィス街のがらんとした静寂、というイメージはたぶん「ドラえもん」の「鏡の中の世界」から。生き物のいない、時が止まったような鏡の世界に入り込んだのび太くんが、道路の真ん中にねっころがったりして遊んでいたシーンの印象だと思う。

時間にしわがつく、という発想は、ワープ航法の解説でよく使われていた「紙の上の2つの点の間を最短で移動するには、紙をぐにゃりと折り曲げて点どうしをくっつけることだ」という理屈。空間がぐにゃり。時間がぐにゃり。

時間は一定の速さで流れる、というのが科学の「普通」。でも好きなことをしているとやっぱり時間は速く流れる。生活によって時間の流れ方は速かったり、ゆっくりだったりする。人間にとっての時間というのは、一定の速さで流れるものではないような気がする。

それは速ければいいものでも、遅ければいいものでもないだろう。その人のペースがあり、その存在の時間の流れがある。「ゾウの時間 ネズミの時間」みたいに。

そして、その流れが急変するのは危ない。小さなところでは、「時差ボケ」や「連休明けにどうも調子が出ない」、大きなところでは「会社を定年退職して気が抜けてしまう」といったように、いきなり時間の流れが変ってしまうと、色んなところに無理が出てくる。

その「無理」が「時間のしわ」。

丸の内のビル街で、お盆休み中に深夜残業している「僕」は、そんな「無理」といつも付き合っていて、「時間のしわ」にいつもけつまづいているのではないだろうか。

……って書いてると、とっても深い考えに基づいて作り上げたみたいに見えるけれども、実際はなんとなーく書いただけ。後から読むとそんな気がする〜というお話でした。

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posted by ゴンザ at 14:34 | 静岡 ☔ | Comment(4) | TrackBack(0) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする